大河「麒麟がくる」 石川さゆりの落涙に心を打たれた

[ 2020年5月11日 12:15 ]

NHK大河ドラマ「麒麟がくる」で明智光秀の母・牧を演じる石川さゆり(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】気が抜けない。最後まで何が起きるか分からない。10日放送のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」は、斎藤道三(本木雅弘)が最期を迎え、一段落したかと思いきや、終わり間近に名場面が残されていた。明智光秀(長谷川博己)の母・牧(石川さゆり)の落涙だ。

 美濃から逃げることを告げた光秀に対し、牧は「私はここに残りまする」と居残りを宣言。険しい表情で「ここは亡き夫、光綱さまが終生大事にされた父祖伝来の地」と訴え、光秀が「母上!」と説得しようとしても「できぬものはできぬ!」と激しく反発する。

 石川のここまでの演技も迫力があり、目を引いたが、その後が圧巻だった。光秀と妻の熙子(木村文乃)、さらに周りの人々が次々と、牧が逃げないのならば自分たちも残ることを告げる。すると、進退窮まった牧の目から一筋の涙。この落涙に心を打たれた。役者がつらい場面や悲しい場面で泣くのは当たり前と言えば当たり前なのだが、その泣き方が物語の流れにそぐわないと感じる場合もある。しかし、この石川の涙には、必要十分な感情表現と言える的確さがあった。

 歌手・石川さゆりの大河出演は、2006年の「功名が辻」以来、2度目。民放ドラマや映画などでも演技の経験は豊富だが、ここまで演技が達者な人だとは、不勉強ながら、これまで気づかなかった。

 「麒麟がくる」制作統括の落合将チーフ・プロデューサーは「石川さんはまず、歌手ならではだが、声に、とてつもない魅力がある。そして、その気品と美しさ、力強さは、古くから武家を守ってきた明智家の牧の役にぴったりだった。牧の役は石川さんなくして実現することは不可能だったと思っている」と明かす。

 その演技について落合氏は「ご自身の舞台で古くからキャリアを積まれていることもあり、初めから安心していた。クランクイン当初から『牧がそこにいる』としか感じられなかった。大河ドラマ独特の映像的なドキュメンタリックな演技もやすやすと自分のものにされていた」と称賛する。

 石川は「津軽海峡・冬景色」「天城越え」などをヒットさせ、「NHK紅白歌合戦」に42回出場。現在の日本の歌謡界を代表する歌手なのだが、「麒麟がくる」では良い意味で、そんな大物感を消し去り、1人の役者として物語に溶け込んでいる。

 落合氏は「ステージ上で『天城越え』や『津軽海峡・冬景色』を歌っている、見る者を圧倒する『歌手・石川さゆり』さんの存在感が、牧を演じると、どこか引いた、控えめな存在感になっている。それをどこまで意識的にやっているんだろうと驚いたことを覚えている」と話す。

 私は一度だけ石川をインタビューしたことがある。石川が歌手になるきっかけを作った島倉千代子さんが2013年に亡くなった後だった。島倉さんに関する細かい質問に、一つ一つていねいに答えてくれたことを今でも覚えている。その時の石川の親切さは、記者として、とても良い思い出だ。できることなら、その親切さに甘えて役者論を尋ねてみたい。


 ◆牧 元一(まき・もとかず)1963年、東京生まれ。編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在はNHKなど放送局を担当。

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