【内田雅也の追球】破る伝統と守る伝統――阪神、来年への希望をみる二遊間

[ 2019年8月21日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神8―0DeNA ( 2019年8月20日    京セラD )

<神・D>3回無死、中井の三遊間の打球に追いつき好守を見せる木浪(撮影・後藤 正志)
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 阪神球団が選手全員にフルコースディナーをふるまったのは1956(昭和31)年のこの日、8月20日のことだ。前日19日、後楽園で巨人とのダブルヘッダーに連敗、首位を明け渡した。

 東京―大阪の移動で初めて飛行機を使った。新幹線などなく、特急つばめで8時間の時代だ。大阪・梅田新道のレストラン「ヘンリー」で夕食後、大阪から汽車で次の遠征先・福山に入った。

 同年25勝、主戦格だった大崎三男が「変に特別なことをしてもらって気持ちがよそ行きになってしまった」と回想している。南萬満が藤村富美男の生涯を描いた『真虎伝(しんこでん)』(新評論)にある。球団は9年ぶりの優勝に向けて、士気を高めようとしていた。だが、長期ロード明け、甲子園に戻った8月25日からの巨人3連戦にも負け越し、浮上することはなかった。

 近年よく言われる夏場から秋にかけての阪神失速だが、どうも昔からの悪癖らしい。『月刊タイガース』創刊号(1978年3月発行)の巻頭でも作家・藤本義一が記した<夏場にタイガースはがっくりきてしまう>と嘆いている。

 あしき伝統を打ち破りたい。今季も長期ロードで苦戦し、クライマックスシリーズ(CS)もかすんでいく。可能性が薄れると、希望や覇気までなくしてしまうのか。

 来年を見たい。もちろん今季に絶望などしないが、来季に目を向けての希望に光を見たい。

 この夜、遊撃手で先発出場した木浪聖也の好守好打を喜びたい。特に3回表先頭、中井大介の三遊間深いゴロを好捕好送球で刺した美技は守備力の成長が出ていた。二塁手・糸原健斗の今季2号本塁打も鮮やかだった。他にも北條史也、植田海ら二遊間を争う内野手は多くいる。逆に言えば、絶対的な選手がいない。

 7月末に獲得した新外国人ヤンハービス・ソラーテは守備位置は二塁や遊撃で、若手野手陣と重複する。打撃も陰ったままで、前日19日の登録抹消も仕方ないだろう。いや、来年を思えば当然の措置かもしれない。

 1991年12月、ラッキーゾーンを撤去し、「広い甲子園」となった当時、球団は「投手力と、捕手―二遊間―中堅手のセンターライン強化した守りの野球」を掲げた。もう28年たつが、目指すべき野球に変わりはなかろう。キーストーン(要石)と呼ばれる二遊間の強化は絶対。これは守るべき伝統である。=敬称略=(編集委員)

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