【元NHKアナ小野塚康之の一喜一憂】また出た!履正社の果報者
第101回全国高校野球選手権大会 準決勝 明石商1―7履正社 ( 2019年8月20日 甲子園 )
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9回の裏、明石商業の攻撃、ツーアウトランナー二塁。7対1、守る履正社リード、ここで明石商業、6番ショートの河野に代打を送ります。狭間監督は大胆な策も講じてきますが、今日はそういう場面が全く見られないまま9回を迎えています。とにかくマウンドの岩崎が好調です。背番号「17」の2年生、1メートル76の右のオーバーハンドが得点力のある明石商業を6安打1失点に抑えています。
岡田監督の期待をはるかに上回る好投!エース清水を温存したままです。追い込まれた明石商業、右のバッターボックスに代打窪田、小柄ながらパンチ力もあります。県大会では絶好調、シャープなスイングと俊足が持ち味です。セットポジションに入った岩崎、履正社は決勝進出までアウトあと1つ、左足を小さく上げて、第1球を投げました。速球アウトコース、ボール141キロ! 今日の岩崎はここまできても球威が衰えることはありません。スピードも出ています。自己最速の145キロをマーク。ツーアウト、ランナー二塁、9回の裏7対1リード。岩崎二塁ランナーを見て、セットポジッション、第2球を投げました。アウトコース、カットボール、空振り、切れています!切れています!カットボールが切れています!まさに“カッター”
ボールカウント、ワンボールワンストライク。ピッチャーとしてはそれほど身長が高い方ではありませんが、体をいっぱいに使って投げ込みます。
テンポよくサインが決まってセットポジッションに入ります。バッターボックスには代打窪田、岩崎、第3球を投げました。カットボール、空振り、実によく腕が振れています。今日の腕の振りはビュンビュンです。さあ岩崎が追い込んでワンボールツーストライク、リードする3年生キャッチャー、キャプテン野口。一声かけてボールを返します。
あっ、岩崎が・・・今、プレートの後方で右足を引いて伸ばす仕草を一瞬見せました。大丈夫でしょうか?足に何か異変でしょうか?今度はつま先でコンコンコンと地面を蹴って、くるっと回す。どうだ?どうなんだ・・・?大丈夫か?大丈夫?大丈夫なの?んー?あッ!プレートに戻る。どうやら大丈夫そうです。
さあ仕切り直し!サインをのぞき込む、岩崎、オレンジのグラブを体の前で合わせてセットポジション、第4球を投げました。ボールッ!アウトコース低めいっぱい142キロ、きれいなラインを残すようなストレート。惜しい!どぁーっと4万人の大観衆がどよめきます。気持ちのこもった1球、窪田見送って、ツーボールツーストライクになりました。
おっと、岩崎がまた、あっ、今度は膝にそっと手を置いてしゃがみます。今度こそ足がつったのか? いや、いやいや岩崎はスパイクの紐を結いなおす仕草、もしかしたら気付かれないように上手に演技しているのか? おう!スーと立ち上がります。岩崎が仕上げの投球に入ろうという、一人で投げ抜こうという強い意志を表情にたたえます。
ベンチや人の動きはありません。岩崎、ここまで勝負強い明石商業打線を6安打9奪三振、無四死球で、初回の来田の先頭打者ホームランの1点だけに抑える好投を続けています。9回の裏7対1。履正社が明石商業をリード。ツーアウトランナー二塁、右バッターボックスに窪田。マウンド上には2年生のここまで好投、岩崎、右のオーバーハンド。準決勝第1試合、雨上がりの甲子園、日差しも戻って熱気ムンムン!セットポジションに入った、第5球を投げた!外角空振り“さ・ん・しーん”126キロ!最後は渾身のカットボールだ!スリーアウト試合終了。関西対決は7対1履正社が明石商業を破って決勝進出・・・
また1人、甲子園で“幸せ者”が誕生する場に立ち会わせてもらった。
履正社の岩崎峻典投手だ。2年生、背番号は「17」。左腕エース清水大成投手がいる中で大切な準決勝で先発マウンドに立ち、完投してみせた。その上2桁の10奪三振と無死四球のおまけつきだった。失点は1回の裏に先頭打者の来田涼斗選手に喫した先頭打者ホームランの1失点だけ、その後27アウトを奪う間に明石商業に得点を許さなかった。
2桁三振は積み重ねだが、特に1回に失点した次の2回に記録した3者連続三振はチームに士気をもたらした。イニングの先頭の出塁を許したのも3回の裏だけで、あとは確実に抑えた。無駄な走者を許さなかった。明石商業の狭間善徳監督も今日の岩崎投手の好投にはお手上げで何もできなかったと脱帽していた。力のある投手として期待の大きい岩崎投手は、この夏、大阪大会でも1試合15奪三振や7回参考記録の無安打無得点試合などの成果を上げて本番に臨んでいた。この大舞台でも清水投手を支える立場としてチームに貢献していたが、ここで一気にステップアップした。
“無四死球完投”は素晴らしい。課題のコントロールを克服し、完投という形で試合に対する責任感を果たせたことである。最後の、あと一人の場面で、暑さや緊張からくる“足のつり”があったが、自分自身の体調を把握して責任の果たせることを確信したうえ、周囲に見せず、続投し抑え切った。心身ともにギリギリのところで乗り越えたようだ。
周囲の支えや幸運もあっての成果だろうが岩崎投手の今日一日は、この後の戦いや、人生の中でも大いに役に立つはずだ。勝利の笑顔に達成感があふれていた。
◆小野塚 康之(おのづか やすゆき)元NHKアナウンサー。1957年(昭32)5月23日、東京都出身の62歳。学習院大から80年にNHK入局。東京アナウンス室、大阪局、福岡局などに勤務。野球実況一筋30数年。甲子園での高校野球は春夏通じて300試合以上実況。プロ野球、オリンピックは夏冬あわせ5回の現地実況。2019年にNHKを退局し、フリーアナウンサーに。(小野塚氏の塚は正しくは旧字体)
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