お股ニキを直撃!阪神を大分析 ジョンソンはずっと打たれない 青柳プロの次元

[ 2019年6月11日 08:00 ]

阪神・ジョンソン
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 「お股ニキ(@omatacom)」をご存じだろうか?ツイッター上で鋭い視点のもと、新しい野球の見方を提供する“プロウト(プロの素人)”評論家で著書「セイバーメトリクスの落とし穴 マネー・ボールを超える野球論」(光文社)も話題だ。ダルビッシュがその眼力を認め、複数のプロ野球選手ともひそかに交流。そんな謎深い人物に同じくツイッターで「チャリコ遠藤(@sponichi_endo)」として活動する虎番・遠藤が直撃。投打にわたり、2日連続連載で阪神タイガースを大分析してもらった。

 【投手編】

 ――現在の阪神の投手陣をどう見てますか

 一人一人見ても、すごく良いですよね。阪神は背が高くて、速い球を投げる投手を集めているなという印象。藤浪、才木、望月…若くて球の速い投手が本当にたくさんいます。

 ――助っ人・ジョンソンが大活躍している

 めちゃくちゃ良いですね。あのパワーカーブは打てないですよ。ストレートの軌道で来て、ピッチトンネル(※1)から縦に落ちてますよね。おもしろいのが、メジャー時代はカッターも投げていて、カッターの割合の方が多いんですよね。日本に来て封印して、直球とパワーカーブと2球種でいってますね。

 ――あのカーブに日本のバッターが今は対応できていないのか

 あれは本人の状態や球威が落ちない限り、今後も対応できないですよ。巨人の坂本勇ですら“きつい”と言っていましたよね。分かっていても打てない球なんです。あれだけ速くて、途中まで直球の軌道で来てストンと急に落ちていく。バッターもスライダーと言っている人が多いので、スライダーに感じるぐらいの速さと曲がりなのかなと思います。もう少し球速が遅ければ軌道も一瞬、クッと浮き上がって、打者も変化球と分かるんですが。

 ――フォームも力感が良い

 よくアメリカ人は手投げと言われますが、ジョンソンは投げ方も良いですよね。クイックもできますし、足の上げ方を変えてタイミングも外しているし、相当良い選手。よく獲得できたなと。登板数が心配になりますが、運用面でも阪神は連投や球数に気を使っているそうですし、ジョンソンは、このまま打たれないと思いますよ。

 ――ドリスも安定感が際立っている

 実はドリスは入団当時から期待してたんです。当初はもう一人のマテオが守護神で起用されてましたが、僕は当時“マテオ対左では大して打ちにくくない。トータルで見てドリスの方が使いやすい感じ(相手に左の代打を出されたり打順の巡り合わせを考える必要性が小さくなる)”とつぶやきました(16年3月13日にツイート)。一度、肘を故障して自由契約になった時も絶対に他球団に獲られちゃダメと思っていたんです(笑い)。

 ――米国のトレンドでもあるオープナーを阪神も導入すべきか

 基本はやらなくて良いでしょう。先発もそろってますし、メジャーでも成功しているのはレイズぐらい。DeNAの国吉が初回に4失点してましたけど、日本とは、まだ感覚が違うんです。はっきり言って、レイズのリリーフ陣(※2)はみんなケタ違いなんで。運の要素、不確定要素を小さくでき、順番が違っても抑えられる力を持ってる面々で、選手のスペックも高いです。理論上は球が速くて、安定感のあるリリーフを使ってみようとなりますが、国吉も160キロ出るのに、あの時は144キロだったり。ペース配分とか、オープナーの役割も理解した上で投げてると思うのですが、まだ慣れていないのもあって乱れてしまった。メジャーがやってるからと言って成功するわけではない。日本でレイズのようにすごい中継ぎを4、5人そろえられればの話。DeNAでやるならエスコバーとか、三嶋になるんですかね。日本ではDeNAとか日本ハムがやってますが、そんなに向かないのかなと。ジョンソンみたいな投手があと2、3人いれば阪神も立ち上がりが不安定な投手や若手が先発の時に、その内の1人をオープナーに回せると思いますけど、それは現実的には不可能に近いし、必要もないのかなと。

 ――変則投法の青柳が結果を出している

 “8割の力感”(※3)を意識しているみたいですね。僕も高校時代、遊びの野球ですけど、チームがもやしっ子集団で、毎日投げている時期があったんですよ。でも、僕レベルでも軽く投げてもやけに球がいくなとか、力んでもスピードが出ないとかあるんですよね。プロの人は、体の使い方がうまくいってると、軽く投げても球がいくことがプロの次元でもあると思います。青柳投手も昨年、福原コーチはじめ2軍コーチの指導で8割の力感を意識し始めてから、良いなと感じていました。一時期はスーパークイックにも取り組んでいましたが、梅野の肩があればそこまで神経質にならなくて良いのかなとも思います。再現性の面を考えれば、フォームが何種類もできてしまうと、調整が難しくなるし、フォームの数だけ練習する量も増やす必要がありますよね。

 ――希少な投球フォームは武器になる

 下からあの角度であれだけスピード出るピッチャーは球界でもなかなかいないです。今、これだけ上からホップするような直球を投げる投手が多い中で、相対思考からもアンダースローで下から浮き上がるようなスピードボールを投げる人が出てくると予想されていましたが、ソフトバンクの高橋礼なども含めて出てきてますよね。おもしろいのが、下からボールが来るのに青柳はゴロピッチャーなところです。バッターがもっと(軌道が)上がると思うんですかね。

 ――一方でエース候補の藤浪投手が不振に苦しんでいる

 藤浪はもともと好きなんで本当に頑張ってほしいんです。身長が高くて、スラッター(※4)を投げて。1年目から直球とスラッターと、たまにフォークやスライダーを投げて、かなり抑えていたんでね。

 ――コントロールに苦しんでいる

 昨今の球界の事情を見ていると、コントロールより、スピードを上げる方が実は簡単なのかもしれないですね。トレーニングして、フォームがある程度固まれば、球は速くなります。実は、コントロールの方が生まれ持った能力なのかもしれないですよね。メジャーで言うと、今年のドジャース先発陣が凄く良いんですけど、カーショー、柳、ビューラー、ヒル、マエケン、みんな6勝ぐらいしてて防御率も1点台とかで。でも、球速を見ると、ビューラー以外は90マイル強ぐらいなんで、球速は速いに越したことはないが、ある程度トレーニングであげられる。(投手全体の)出力が上がり平均レベルが上がると差がつきにくくなり、データで相手打者の分析やシフトが進んでいると、計算通り投げられるコントロールがより重要になってきているのかなと思いますね。

 ――藤浪の復調をお股さんも願っている

 みんな思ってると思うんですけど、好きなんで復活してもらいたいです。メッツにデグロム(※5)という投手がいるんですが、身長が2メートル近くあって手足が本当に長い。藤浪と似たタイプで球種や球質も似ているので、師事してもおもしろいと思います。同じく超長身で若い頃は制球に苦しんだものの、克服して大投手になったランディ・ジョンソンの話も相当参考になるかと思います。

 ――今年は島本ら1軍経験の浅かった投手が活躍している

 島本は髪形(長い襟足)も特徴的なんで注目してましたよ。小柄なのに球がすごく速い。あのストレートは質的にはバーランダーに近いタイプだと思います。ジャイロ回転(※6)が入るほど変化に対する影響は小さくなるので、彼のボールは、一番バックスピンに近いボール。ちょっとシュートしつつ、浮き上がるみたいな感じで。この前の坂本勇の三振みたいなボールはすごく利くと思いますしスプリット(フォーク)も非常に良いです。そう考えると阪神のピッチャーは盤石。相当、強いですよ。

 ――阪神だけでなく、日本の投手の今後の傾向などは

 結構、メジャーと同じ現象が起きてくるんじゃないかと思うのが、みんな背が高くて球が速いと、イチローが日本に来た時に巨人の今村のボールを“遅い”とか言いましたけど150キロのボールをみんなが待つと、逆に140キロぐらい投げる人が打ちにくくなってくるんじゃないかと。メジャーでも左の技巧派の人が復活してきてます。150キロの直球よりも、140キロがかえって打てないみたいな。西武に移籍した榎田もその理論に当てはまるのかもしれませんね。150キロをバンバン投げる出力の高いピッチャーの中で左の榎田がいきなり現れて抑えていました。阪神なら岩崎とかもそこに当てはまりそうですね。

 (次回は野手編)

 ※1 ピッチトンネル ホームベースから7・2メートルの空間にあると仮想される投手の投げたボールが通るトンネル(円)。ボールが同じ場所に集まるほど小さくなる。ピッチトンネルが小さく、そこからボールがさまざまな方向へ変化していくと、打者はボールを見極めずらくなる。

 ※2 レイズのリリーフ陣 左のアルバラード、右のスタネック、カスティーヨなど100マイル近いストレートと90マイルのスラッターを投げる怪物がそろうメジャー屈指のブルペン陣。 

 ※3 8割の力感 「8割程度投げても球が行く」感覚で、最高球速より平均球速の重要性。多少抜きながらも安定して高い水準を続けられる技術や体力、再現性が活躍の鍵を握っている。

 ※4 スラッター スライダーとカッターを合わせた造語。直球の軌道からカッターのように鋭く、スライダーのように曲がる万能型の変化球。

 ※5 ジェイコブ・デグロム ニューヨーク・メッツのエースで昨年のナショナル・リーグ、サイ・ヤング賞投手。細身の長身から剛球を投げ込み奪三振を量産していく。

 ※6ジャイロボール ボールの進行方向と回転軸が完全に一致しているボール。空気抵抗が小さく初速と終速の差が小さい。進行方向と回転軸が少しズレた場合はバックスピンやサイドスピンの成分が表れ、軌道がわずかに変化して“魔球”になる。島本が坂本勇を三振に仕留めたのはジャイロ成分が限りなく少ない純粋なバックスピンのホップするストレート。メジャーでは多くの投手がジャイロ回転のスライダーやチェンジアップを投げている。日本では今永、ソフトバンクの投手陣がジャイロ回転のボールを投げる。 

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