藤井の8六歩 新王将が生み出す令和のトレンド ディフェンスライン押し上げ、数的優位つくる

[ 2022年2月13日 05:30 ]

第71期ALSOK杯王将戦第4局第2日 ( 2022年2月12日    東京都立川市・SORANO HOTEL )

王将戦第1局での藤井の「8六歩」(41手目)                                  
Photo By スポニチ

 新王将となった藤井聡太竜王は毎年8割以上の勝率を残し、今年度は全8冠中、出場した5つのタイトル戦でも18勝3敗と圧倒する。渡辺明前王将に7勝0敗、豊島将之九段に11勝3敗。タイトルホルダー2人から挙げた驚異の成績に、その指し手は新たな潮流を生み出している。

 その一つが今期第1局と第3局、先手藤井が指した▲8六歩だろう。共に後手の渡辺飛車が直射する歩を突き出した。敵の最強の駒に対して、攻略手段はありますか?と挑発するようだ。居飛車党にとって9枚中、最も動かしづらい歩を活用する一手は、第3局副立会人の戸辺誠七段(35)を「▲8六歩ブームがきそう」と驚かせた。「相居飛車では一番突きません。攻められるポイントになりかねない」。渡辺とフットサル仲間でもある戸辺は、第1局における▲8六歩の意味を「ディフェンスラインを押し上げる」、第3局を「数的優位をつくる」と表現した。

 7三に待機する桂を豊富な運動量で試合中、何度もオーバーラップするサッカー日本代表DF長友佑都になぞらえ「長友を一つ前で止めるイメージ」。第3局は将来7三に跳ねてくる桂と飛車による8五地点への利きを足す狙いだという。

 第1局の▲8六歩について、藤井は「相掛かりでは部分的に出てくる手」。第3局については「▲7七金とした後に▲8六歩とするのは手筋。それにならった」。渡辺が△7四飛と7六歩を取りにきたのでそれを阻止した、自然な一着だったという。

 ▲8六歩は第1局の4日後、服部慎一郎四段(22)の王座戦1次予選の対局でも出た。今年度勝率ランキング4位につける関西のホープ。棋士同士による練習将棋ではこれまでも指されていたそうで、「タイトル戦ではあまり出なかった。(藤井が指した後)研究しました。これから指されていく可能性は高いと思います」とその影響力を物語った。

 昨年来「藤井曲線」が話題になった。AIによる形勢判断を数値化すると、序盤から少しずつ藤井有利に振れ、マイナスに振れることがないまま相手を投了へと導く、一貫した右肩上がりの形状が知れ渡った。

 未開拓分野に手を加え、価値を創造する。「▲8六歩」は、新たな藤井将棋を表すキーワードになるかもしれない。

 【藤井聡太 5冠の歩み】
 ▽2002年7月19日 愛知県瀬戸市で生まれる
 ▽16年10月1日 最年少の14歳2カ月でプロ入り
 ▽12月24日 プロデビュー戦で加藤一二三・九段に勝利
 ▽17年6月26日 デビューから最多の29連勝達成
 ▽18年2月17日 朝日杯オープン戦で中学生初の棋戦優勝、六段に昇段。15歳6カ月は最年少記録
 ▽19年2月16日 朝日杯オープン戦で2連覇
 ▽20年7月16日 棋聖を奪取し、最年少17歳11カ月でタイトル獲得
 ▽8月20日 王位を奪取して最年少18歳1カ月で2冠に。八段に昇段
 ▽21年7月3日 棋聖初防衛。18歳11カ月での九段昇段は史上最年少、タイトル防衛も最年少
 ▽8月25日 王位初防衛
 ▽9月13日 叡王を奪取し、最年少3冠
 ▽11月13日 竜王を奪取し、最年少4冠
 ▽11月19日 王将戦の挑戦権を獲得

 ◇藤井 聡太(ふじい・そうた)2002年(平14)7月19日生まれ、愛知県瀬戸市出身の19歳。16年に14歳2カ月の史上最年少で四段昇段、史上5人目の中学生棋士となる。獲得タイトルは王将を加え通算7期。趣味は鉄道、チェス。杉本昌隆八段門下。

続きを表示

この記事のフォト

2022年2月13日のニュース