「探偵ロマンス」男装の麗人・市川実日子と続編の行方

[ 2023年2月12日 08:24 ]

ドラマ「探偵ロマンス」で男装の麗人を演じる市川実日子(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】作家・江戸川乱歩の誕生秘話をエンターテインメント活劇化したNHKドラマ「探偵ロマンス」(全4話)が11日の放送で幕を閉じた。

 最終回の最後に、謎めいた男装の麗人(市川実日子)が登場。その指には、警察に逮捕された住良木平吉(尾上菊之助)が所持していたはずの宝石「イルベガンの卵」。平井太郎(濱田岳)と白井三郎(草刈正雄)が後を追い始めたところでエンドロールとなった。

 このドラマを企画・演出した大嶋慧介氏は「まだ物語は続くということを強く印象づけたかった。男装の麗人は住良木が変装した人物なのか、それとも新しい人物なのか、想像して楽しんでいただければ」と話す。

 全4話の中で市川実日子はこのワンシーンだけの出演。髪をミリ単位で整えていく繊細なメークを施した上で撮影に臨んだ。

 大嶋氏は「当日、どう演じるか相談したが、市川さんはすぐにつかんだ様子で、リハーサルした時には男装の麗人になっていた。僕も撮影していて、これは住良木なのか?新しい怪盗なのか?とゾクゾクした」と明かす。

 住良木だとしても新しい怪盗だとしても、イルベガンの卵を持って太郎と三郎の前から去って行った以上、事件は解決しておらず、物語は終わっていないことになる。

 制作統括の櫻井賢氏は「脚本の坪田文さんの中にセカンドシーズンの構想がわき上がって来る中で男装の麗人の構想が出てきた。市川さんに出演交渉する際も、私は『この場面だけで終わる役ではない』と風呂敷を広げた。あとは視聴者のみなさんの反響にかかっている」と語る。

 このドラマは乱歩の誕生秘話の形だが、のちに乱歩となる太郎は全4話でまだ作家デビューしていない。史実として、乱歩は「二銭銅貨」(大正12年)でデビューし、「D坂の殺人事件」(大正14年)、「陰獣」(昭和3年)、「黒蜥蜴」(昭和9年)、「怪人二十面相」(昭和11年)などを発表していく。

 櫻井氏は「乱歩はデビュー前、生活ができなくなって、妻と子供を連れて大阪・守口の父親の家に居候した。そこで書いたものでデビューしたが、その後も、書けなくなると執筆を投げ出して姿を消すという行動を繰り返した。このドラマとしては、姿を消している間に実は裏で怪盗を追っているという設定にすれば、時代的に大正、昭和、戦中…と長く描いていくことができる。坪田さんの中には相当、物語ができている」と話す。

 続編が制作されれば、再びアクションシーンが大きな見どころになるだろう。最終回では、太郎、三郎、住良木をはじめ、狭間勇(大友康平)、蓬蘭美摩子(松本若菜)らが10分以上にわたる壮大な戦いを繰り広げた。

 大嶋氏は「役者さんたちが楽しんでやってくれてありがたかった。みなさんに事前にワイヤーで吊る話をした時、えっ?となったが、撮影ではワクワクした様子でやってくださった。菊之助さんが4階から落ちるシーンでは、レスキュー用のマットを下に用意した。菊之助さんにお願いしておきながらも、僕だったら怖くてできないと感じた」と話す。

 櫻井氏は「菊之助さんはあのシーンを1回で決めた。どう振る舞えばどう見えるかということを分かっていらっしゃって、とても優雅に落ちていった。菊之助さんの表現の幅、引き出しの多さを感じ、感動した」と振り返る。

 さらに刺激的なアクションシーンを楽しめる日を待ちたい。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

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2023年2月11日のニュース