【藤川球児特別手記(1)】悔いのない40年 「おもしろきこともなき世を面白く」

[ 2020年11月11日 06:30 ]

阪神・藤川球児引退試合 ( 2020年11月10日    甲子園 )

<神・巨(24)>引退セレモニーでマウンドに向かう藤川(撮影・大森 寛明)
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 阪神・藤川球児投手(40)が10日の巨人戦で引退試合に臨み、慣れしたんだ“最終回”に登板した。今季最多2万1392人を集めた本拠地・甲子園球場で「火の玉」と称された全12球の直球勝負で2三振を奪うなど打者3人を抑え、22年間の現役最後のマウンドを終えた。家族、ファン、関係者への感謝の思いを込めた手記を本紙に寄せた。

 プロ野球選手「藤川球児」としてはすべてやりきりました。阪神ファンは自分にとっての“家族”。最後も、その人たちの前で投げることができました。プロのエンターテイナーとして、実はプレーでファンの人たちを「楽しませてあげないといけない」という使命にも似た強い気持ちをずっと持ってマウンドに立っていました。

 大げさに聞こえるかもしれませんが、グラウンド上は戦争、戦だと思ってプレーをしていました。何がなんでも勝たないといけない。だからプレー以外の形ではあまりファンの方の方を向くことはなかったと思います。プレーがすごかったら必ず振り向いてくれると信じていました。引退を発表してから今日までの間は、今まで応援してくれたファンの人たちへの恩返しだと思ってやっていました。

 ユニホームを着ている自分はすべての人たちの力で、作り上げられた「藤川球児」という人間ではなく、一つのキャラクターだった気がしています。本当の自分とは少し違うところにいる、もう一人の自分。小学生の頃から学校生活では、普段家にいる自分とはまったく違うスタイルを求められてきました。だから、そこの世界で作り上げられてきたキャラクターと今日は最後のお別れという感じがします。

 ただ今は、まだ過去を振り返るには早いです。記憶も、記録もすべての事を含めてトータルで「1」みたいな感じですね。思い出のどれもが記憶に新しいんです。これまでの現役生活を考えたとき、真っ先に出て来るのは「面白かった」という言葉です。

 「おもしろきこともなき世を面白く」――。

 高杉晋作が残した辞世の句として有名な言葉ですが、まさにその通りだと思います。いろいろなことがあった中でも面白く生きて来られたと思います。起伏はありましたが、とてもハリがあったこれまでの40年間でした。

 とにかくとても楽しくて、面白おかしかったです。時には、面白おかしく笑われたこともありました。しかし、その事すら周りの方々の力で頑張ることができました。人一倍の叱咤(しった)激励もいただきました。それも「これは叱咤激励なんだ」と捉えることができました。そういう意味でも面白かったです。人生の大事な時期を、とても幸せに過ごさせてもらったことには本当に感謝しています。

 今日、こうしてプロ野球選手としての終わりを迎えたときに、自分の中で常に野球「ありき」の人生でした。両親に「球児」という名前を付けてもらったこともそうです。そういう部分でも、すごく野球のことを大切にできたかなと思っています。プロになっても仕事や生業とかにせずに、純粋に野球に対して真摯(しんし)に向き合うことができました。野球人としては胸を張れる野球人生です。

 ただ、自分一人で築いてきたものは、何一つないのかなという思いがあります。自分の力は一つもないと…。小学3年生から野球を始めて18歳で阪神に入団。そのプロの世界では背番号と同じ22年間。ユニホームを脱いだ今は、アマチュア時代の9年間を支えていただいた方々だけに対しての恩返しがようやくできたと思っています。プロに入ってからの恩返しは…。【(2)に続く】

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2020年11月11日のニュース