藤川球児の12球 オール直球勝負で現役に別れ「数字が残せなければ終わり」自分との約束守り引退

[ 2020年11月11日 05:30 ]

セ・リーグ   阪神0-4巨人 ( 2020年11月10日    甲子園 )

<神・巨>9回無死、坂本は空振り三振に倒れる(投手・藤川)(撮影・椎名 航)
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 阪神・藤川球児投手(40)が10日の巨人戦で引退試合に臨み、慣れしたんだ“最終回”に登板した。今季最多2万1392人を集めた本拠地・甲子園球場で「火の玉」と称された全12球の直球勝負で2三振を奪うなど打者3人を抑え、22年間の現役最後のマウンドを終えた。

 笑顔でマウンドを去った。別れを惜しむスタンドを“火の玉”で励ますように…藤川は力の限り腕を振った。

 「チームのために涙を流すことはあるかもしれませんが、個人が野球を離れることで涙するのはなかった」

 9回、大歓声を背に向かった“定位置”で待っていたのは矢野監督だった。最強の相棒から託された“最後のバトン”。「球児コール」が背中を押した。先頭で対峙(たいじ)したのは、代打・坂本。「しのぎを削ってやってきて最後、花を持たせてくれた」。ベンチスタートでこの時に備えていたかのように打席へ向かった歴戦のライバルを、4球目の148キロで空を切らせた。続く中島の4球目にはワインドアップも披露。最後は146キロで空振り三振。続く重信を二飛に仕留め、現役最後のアウトを奪った。最速149キロ。「明日投げればもう1キロぐらい出たかな」と笑ったが「藤川球児」を体現したオール直球勝負だった。

 「家族にも、いつでも辞めていいと約束してきた。家族、子どもたちと一緒にいられない時間の分だけ倍以上頑張る。“おやじ頑張ってるな”というところを見せるには普通に頑張ってても分からない」。犠牲にしてきた時間を甲子園の熱狂に変える。それがプロとしての仕事だった。

 グラウンドではクローザーとしてチームの勝利にすべてを注いできた男も、マウンドを降りれば一丸のための小さな“歯車”になることをいとわなかった。オフには1年間コンディショニングに努めてくれたトレーナー陣の慰労会を自ら開催。面識のない2軍担当のトレーナー陣にも声をかけ、団結を図った。

 フォーム修正に迷う後輩がいると、「朝からやるぞ」と誰もいない室内練習場に誘い連日、キャッチボールに付き合った。「ここからは自分の感覚やから、分からないことがあれば聞いてこい」。深入りはせず、光が見えるとそっと離れる。若虎の幾多の悩みを受け止めてきたグラブは今年の開幕前、破れた。

 最後は虎党に感謝と別れを告げるように手を振り、場内を一周。区切りは付けた。「数字が残せなければ終わり。タイガースのユニホームを着た自分との約束だったので。守れた男でよかったなと」。日米通算250セーブまであと5に迫りながら、その数字も気にしはしなかった。「ありがとう、球児」の多くの声が「火の玉」の完全燃焼を告げた。(遠藤 礼)

 《右肘は限界寸前》ラスト登板で、全12球ストレート勝負で149キロをマークした藤川は試合後の会見で、改めて引退の決断に至った肩、ヒジの状態を自ら説明した。「元気なように見えるけど、物理的には手術をしないといけない状態。終わったから言えるけど、状態は思わしくない。ヒジは5カ所くらい手術しないといけないし、肩もガタがきて、来年のプレーを約束することができない」とギリギリの中での投球だったと初めて打ち明けた。

 ▼巨人・重信(藤川の現役最後の打者。146キロ直球に二飛)自分自身の野球人生の中で、藤川さんのような偉大な投手と対戦できたことが本当に光栄です。

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2020年11月11日のニュース