LINDBERGが耳にこびりついて離れない病にかかった

[ 2020年11月12日 13:12 ]

藤川との別れを惜しんだファン
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 【君島圭介のスポーツと人間】あの日からずっと頭の中で、「every little thing あなたがずっと追いかけた夢を……」とメロディーがリフレインしている。阪神・藤川球児の引退試合を観戦した人の多くは、同じ「病」にかかったはずだ。

 藤川の登場曲で、10日に甲子園で行われた引退登板&セレモニーでも効果的に使われていた。音楽とスポーツの相性はいい。アテネ五輪のNHK中継公式テーマだった、ゆずの「栄光への架け橋」は、男子体操団体が28年ぶりの金メダルを獲得した名場面の記憶を感動的に彩る。hitomiの「LOVE 2000」が元気をくれるのは、シドニー五輪で底抜けに明るくて強かった高橋尚子がいたから。根性と忍耐が代名詞だったマラソンをポップで楽しい競技に変えてしまった(もちろん凡人にとって走る辛さは普遍だが)。あの曲がなければ今の空前のランニングブームも起きなかったかもしれない。

 運動用具大手アシックスのホームページに東大薬学部教授の池谷裕二氏による「脳科学からみる運動と音楽の関係」が紹介されている。そこで池谷氏は音楽の本質はリズムとし、運動時のテンポとシンクロすると説明している。そしてとくに好きな音楽はドーパミンに代表される「脳内報酬系」という部位が活性化して運動の辛さを軽減するという。

 音楽では1分間の拍数をBeats par minute(BPM)で表わすが、「LOVE 2000」は170ほど。全盛期の高橋のピッチ(1分間の歩数)は209歩だったというから、レース中は頭の中で少し高速回転で流していたのかもしれない。

 藤川が登場曲にバラードを使用するのが不思議だった。マウンドという戦場に向かうにはしっとりし過ぎる。紅茶を飲みながら夜空を眺めてほっと一息をつきたくなる曲だ。気分を高揚されるにはもっと好戦的なラップや疾走感のあるロックの方がいいし、実際そういう曲を使う選手は際多い。

 ただ、野球の投手は自分でリズムを作れる。投手によっては速いテンポを好むが、それでもBPM170は必要ない。むしろ「every little thing every precious thing」くらいのテンポが相応しい。そう考えれば藤川の選曲も納得だ。さすが一流は登場曲でも唸らせる。(専門委員) 

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2020年11月12日のニュース