【内田雅也の追球】絶望することはない 優勝は絶望的の阪神に見た希望

[ 2020年10月7日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神4-4広島 ( 2020年10月6日    マツダ )

<広・神(18)>9回1死一、二塁、近本は二ゴロ併殺に倒れる (撮影・奥 調)
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 今年夏公開の映画『劇場』(原作・又吉直樹、監督・行定勲)で、売れない劇作家、永田(山崎賢人)が恋人の沙希(松岡茉優)に「演劇ができることって何だろうって、最近ずっと考えていた」と語り掛ける。

 「そしたら全部だったよ。演劇でできることは現実でもできる。だから演劇がある限り絶望することはないんだって」

 夢がある限り、希望はある。いまの阪神はこの「演劇」を「野球」に置き換えて考えたい。

 前日5日までの首位巨人との4連戦(甲子園)を終え、何か空気が変わったようだ。マツダスタジアムには秋風が吹いていた。

 もう優勝はほぼ絶望的である。だが絶望する必要などない。野球に夢を描き、夢を追うのならば希望はある。

 クライマックスシリーズ(CS)が創設された2007年以降、阪神はほぼ毎年、シーズン最終盤まで日本シリーズ進出の可能性があった。CSがない今季――どう書けばいいだろうか――久しぶりに、来年をにらんだ戦いの日々が訪れていた。

 この夜組んだ新オーダーにそれは現れていた。2年目20歳の小幡竜平を初めて1番で、同じく2年目の近本光司を昨年9月以来の3番で使った。

 その小幡は2安打を放った。1―1同点の7回表、2死三塁の勝ち越し機では右翼線、左翼線へのファウルに希望が見える。広角に打ち分けたライナーは、あとわずかで殊勲打だった。

 近本は5打数無安打だった。3割が見えてきていたが、打率を下げた。

 3―3同点の9回表、1死一、二塁の勝ち越し機。3ボール―1ストライクから二ゴロ併殺に倒れた。俊足近本の併殺打は今季3個目。セ・リーグ30傑で四球は最少の21個。3―1からの選球はテーマだが、好球必打で打って出る果敢さは持ち味である。一塁を駆け抜けた後、悔しさに顔がゆがんでいた。

 野球を愛する作家・重松清は<「必死」と「悔しい」は、根っこのところでつながっている>と『ウイニングボール』(文春文庫)で書いていた。先に、来年をにらんだ戦いと書いたが、それは「悔しさ」を糧とする日々かもしれない。

 試合は相手のミスに何度も助けられ、野手全員を使う総力戦の末、延長10回、結局引き分けた。もちろん、勝ちたかったし、勝てる試合でもあったが、今からは勝敗同様に、希望を探す戦いが続いていく。

 監督・矢野燿大は開幕前から「予祝」として、何度も優勝や日本一を宣言していた。その姿勢をとやかく言う者がいるかもしれないが、夢は描かぬ限り届かない。今も絶望する必要はないのである。=敬称略=(編集委員)

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