「エビまで回せ!」岩井・坂東清風ベンチに生まれた一体感 代替試合で胸に響いた光景

[ 2020年7月16日 09:00 ]

<茨城大会 岩井・坂東清風ー伊奈>試合後、ナインとの記念撮影を終えた岩井・坂東清風の蛯原主将(中央)=撮影・郡司 修
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 これが負けているチームなのか。9回の活気あふれる一塁ベンチの雰囲気に正直、驚いた。悲壮感はまるでない。選手も監督も観戦に訪れた保護者も皆、最後の夏を思い切り楽しもうとしていた。野球記者3年目で初めての高校野球取材。一つ一つの光景が新鮮で、胸に響いた。

 11日に行われた「2020年夏季茨城県高等学校野球大会」の1回戦、岩井・坂東清風―伊奈戦。3―6とビハインドだった岩井・坂東清風は、ある合言葉で一つになっていた。「エビまで回せ!」。中林孝佑監督が大きな声を張り上げ、ベンチに一体感が生まれていた。

 その蛯原颯汰主将(3年)は、ネクストバッターズサークルで試合が終わった。最後の打席は回ってこなかった。それでも、試合後に蛯原は「漫画みたいだなと思った。めちゃくちゃうれしかったです」と笑った。

 岩井への入学直後に同学年2人が退部。それからはずっと学年1人で練習してきた。2年夏は連合チームで出場し3回戦で敗退。1つ下の学年は2人で、2学年合わせてたったの3人だった。6月に練習再開後、奇跡的に8人が入部し、実質単独チームでの出場が叶った。蛯原は捕手としてチームを引っ張った。初回1死一塁から鮮やかな左前打を放つと、2回には三盗、5回には二盗阻止。試合には敗れたが、攻守で躍動した。

 試合後も驚く光景があった。試合中は笑顔でチームを盛り上げていた中林監督が人目をはばからず大粒の涙を流した。「たった一人であれだけ頑張ったのに、勝たせてやれなくて申し訳ない」。指揮官はさらに「今日のエビの姿は本当にかっこいい。あれがやりきった男のかっこよさ」と言った。たった一人の3年生は「1年生もいっぱい入ってくれて、やっと単独で出られた。“ありがとう”という気持ちでいっぱい。全て出し切りました」とすがすがしい表情だった。

 夏の甲子園と、それにつながる地方大会が中止になる中、さまざまな関係者の努力があって何とか開催にこぎ着けた各都道府県の代替大会。球児はもちろん、監督、保護者、審判員、そして僭越ながら、記者にとっても。一人一人にとって、忘れられない夏になる。(記者コラム・岡村 幸治)

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