【内田雅也の追球】旅を終えての「目覚め」――秋の成長が見え始めた阪神

[ 2019年9月4日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神(ノーゲーム)DeNA ( 2019年9月3日    横浜 )

初回1死、落雷の危険性があるため、試合を一時中断とする佐々木球審(撮影・坂田 高浩)
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 映画『スタンド・バイ・ミー』(日本公開は1987年)で4人の少年が死体探しの旅に出たのは9月4日だった。

 注意深く見れば、日付を特定できる。町に帰ったのが「日曜日の朝5時。労働者の日(9月第1月曜)の前の日だった」とゴーディの回顧にある。1959年の話なので、同年のカレンダーを見れば、9月4日だとわかる。ちょうど60年前ということになる。

 12歳の4人は線路沿いに30キロ歩き、鉄橋で列車にひかれそうになり、沼でヒルにかまれ、野宿では交代で見張り番をしながら、旅をする。

 町はオレゴン州キャッスルロック。「人口たった1281人。だが私には全世界だった」とゴーディ。そして、冒険を終えて帰ると「たった2日の旅だったが、町は小さく、違って見えた」。

 これが成長である。彼らは旅を終え、確実に成長していた。

 3日の試合前、横浜スタジアムで阪神内野守備走塁コーチ・久慈照嘉がノックを打つ合間、「最近、エラーがないねえ」と声をかけると、少し笑った。さらに「法華の太鼓やな」と言うと、聞こえなかったのか「え?」。もう一度言うと「そこまででもないですよ」。

 「法華の太鼓」はいわゆるしゃれ言葉だ。法華宗のうちわ太鼓は「どんどん、よう鳴る」。つまり「少しずつ、良くなる」という意味だ。

 以前書いたのだが、目下リーグ最多92失策の阪神だが、月別失策数で言えば、3・4月21個→5月20個→6月25個→7月17個→8月9個と確実に減ってきている。8月12日の広島戦(京セラ)から16試合連続無失策を続けている。久慈も「どんどん」というほどの速度ではないが、長期ロードという阪神恒例の夏の旅を終え、手応えは感じているのだろう。あの少年たちのように、成長は目に見えないものだ。

 久慈がノックを打っている時は青空ものぞいていたが、試合が始まると漆黒の空を照らすように稲光が走り、ゴロゴロと雷鳴がとどろいた。1回裏1死、打者ソトのカウント1ストライクの時点で、2度の中断の末、ノーゲームが宣告された。

 七十二候はこの日から「禾乃登」(こくものすなわちみのる)。実りの時を迎えている。

 『スタンド・バイ・ミー』の原作はスティーヴン・キングの小説『恐怖の四季 秋冬編』(新潮文庫)に収まる。副題が『秋の目覚め』とついていた。そう、目覚める時である。=敬称略=(編集委員)

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