150キロ右腕の西に「ガッツポーズ禁止」 9四死球の乱調で逆転負け

[ 2018年8月15日 11:50 ]

第100回全国高校野球選手権記念大会 2回戦   創志学園4―5下関国際 ( 2018年8月15日    甲子園 )

<創志学園・下関国際>初回、創志学園・岡本(右奥)を見逃し三振に仕留め、ガッツポーズをする創志学園・西(撮影・坂田 高浩)
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 大会屈指の剛腕、創志学園(岡山)の西純矢(2年)は敗戦が決まると、三塁ベンチでうなだれ、天を仰いだ。本塁をはさんでの整列に最後に加わった。

 悔しい敗戦だった。2点リードの9回表、連続四死球と安打の無死満塁から暴投、右前打で同点とされ、中犠飛で逆転を許した。

 「最終回ですね」と長沢宏行監督(65)は初め、西をかばうように話し始めた。「あの回だけでしょう。勝てる、という色気が出たのでしょう。2年生ですしね。雨も降っていたし……。勘弁してやってほしい。この負けを経験して彼がどう変わっていくのか。今後の人生をみてやってほしい」

 立ち上がりから制球が定まらずに苦しんだ。与えた四死球は9個に及ぶ。1回戦で150キロを計測した球速は最速で148キロ。それでもスライダー、カーブを使い、何とかリードを保っていた。

 ふだんの自分の投球スタイルを出せずに苦しんでいたようだ。敗戦後、西はこんなことを明かした。

 「試合の序盤の方でベンチに帰り際、球審から“必要以上にガッツポーズはしないように”と結構強めに言われました。でも、自然と出てしまうので……」

 西はふだんから三振を奪ったり、打ち取った後、派手なガッツポーズをつくり、雄叫びをあげていた。

 日本高校野球連盟(高野連)の竹中雅彦事務局長は「大会本部からは何も言っていない。審判独自の判断で注意したのでしょう」と話した。

 そして「全国大会の甲子園でやるのはどうか……。アンリトゥン・ルールというのもありますしね。国際大会ではやってはいけない行為」と付け加えた。

 アンリトゥン・ルールとは「書かれざる規則」、不文律の意味。大リーグや米国、国際野球の舞台では、ガッツポーズは相手を侮辱する行為として戒められている。日本の武士道精神にも反する態度だとも言える。

 長沢監督は気づいてはいなかったそうだ。試合後、記者団から「ガッツポーズ禁止」の球審注意を伝え聞き、「そうですか。初めて聞きました」と少し驚いていた。「う〜ん……。あれは彼の感情表現ですからねえ……。自己表現なんですよ。弱いから余計にああいう態度をとる。しかし、ガッツポーズ、禁止にできるんですかねえ……」。言葉に詰まった。

 前日14日、同じく今大会注目の右腕、金足農・吉田輝星(3年)の投球をテレビで観戦し、長沢監督は西に「あの姿を見ならいなさい」と助言を与えていた。「味方のミスにも動じない。援護点には仲間をたたえる。勝った後、校歌を全力で、笑顔で歌っていた。あの人間性をみならってほしいと思った」

 チームワーク、協同の精神など、野球の美点を学んでほしいと願っていた。

 ガッツポーズがクローズアップされるが、何もガッツポーズを注意されたから、投球が乱れ、敗れたわけではないだろう。独り相撲と映るシーンが散見されたのも確かである。

 「3年生の投手もいたが、西に最後まで投げさせた。この甲子園という舞台で西にきついお灸をすえる意味もあった。しかし、使える投手を使わなかったのですから、3年生には悪いことをしたと思います」。ブルペンやベンチ横では秋久大翔(3年)が序盤から何度か準備をしていた。

 「これからは西一人のチームにしないように指導していきます。まだ他にも投手がたくさんいますので、西ももう一度、一から競争ということでやっていってほしい」

 西は打撃では初戦の6番から3番に抜てきされていた。1点を追う9回裏は1死一塁で打順が回り、「サインはバントの構えから待て」(長沢監督)だったが、自らバントして一塁に頭から突っ込んだ。最後の最後にチームへの「犠牲」の心が現れ出たのだろうか。

 この日は、昨年10月11日に亡くなった父・雅和さん(当時45歳)の誕生日だった。帽子のつばには「10・11」と書かれている。

 投球数は179球に及んだ。被安打はわずかに3本。9個の三振を奪っての敗戦。将来性豊かな剛腕にとっては新たに「8・15」もまた忘れられない日となった。(内田 雅也)

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