NHK「みんなのうた」60年 財津和夫「切手のないおくりもの」の普遍性の源

[ 2022年3月2日 07:45 ]

「『みんなのうた60』フィナーレ」のロゴ(C)NHK
Photo By 提供写真

 【牧 元一の孤人焦点】この歌ほど簡潔でありながら心を強く捉える楽曲をほかに知らない。財津和夫(74)の「切手のないおくりもの」。NHK「みんなうた」で1978年から流れ、財津だけではなく、多くの人たちが歌い継いできた曲だ。

 メロディーは単純明快。一度聴けば覚えられる人も多いだろう。歌詞も単純明快。そこにあるのは、自分の気持ちを込めて誰かに歌を届けようという純粋な思いだけだ。届ける相手は、老若男女を問わない。恋人でもいいし、友人でもいいし、親でもいいし、子供でもいい。身の回りの誰かのことを思い浮かべながら、この歌を聴き、最後に♪広い世界に たった一人の 私の好きな あなたへ…という詞を耳にすると、いつも胸が熱くなる。

 1961年にスタートした「みんなのうた」は現在、60年イヤーの最中。プロデューサーの関山幹人氏は「『切手のないおくりもの』は1978年に初めて放送された後、82年と96年にリメークされて放送されている。その時々の担当者に『この歌を、もう一度、届けたい』という思いがあったからだろう。聴きたくなるだけではなく、歌いたくなる曲で、平井堅さんやDEENさんら多くの方々にカバーされ、『みんなの心につながる歌』になっているのではないか」と話す。

 「切手のないおくりもの」にある普遍性。それは「みんなのうた」という番組を象徴しているように感じる。

 関山氏は「番組は、流行歌でもなく学校の唱歌でもない第3の音楽、大人も子供も一緒に歌える音楽を作ろうという考えから始まった。子供から年配の方々まで幅広く、それぞれの価値観で共感できるような歌をできる限り提供するという思いで、曲選びをさせていただいている」と説明する。

 財津は「切手のないおくりもの」のほか、「空飛ぶ林檎」(85年)、「さようならコンサート」(89年)などを番組に提供。60年イヤーの締めくくりとして、新曲「想い出に話しかけてみた」を書き下ろし、2月から番組で放送されている。

 関山氏は「『今だけの歌』ではなく『聴き続けてもらえる歌』を作っていただいた。60年の今をスタートとして、これから5年、10年、20年と、みなさんにどのように聴いてもらえるかということを意識して作ってくださったと思う。個人的な感想になるが、財津さんの歌は語り過ぎず、聴く人の想像力をかきたてるところがある。歌う人の物語ではなく、聴く人の物語になるような曲で、素晴らしいと思う」と話す。

 この曲で流れるアニメは「切手のないおくりもの」96年版でも一緒だった古川タク氏が制作。別れた男女のことを歌っているようだが、じっくり聴くと、人の一生に関して歌っているようでもあり、「みんなのうた」らしい普遍性を感じる。

 今月5日には、Eテレで特番「『みんなのうた60』フィナーレ」(後7・00)が放送される。

 関山氏は「この60年で作られた1000曲以上の歌詞をAIに読み込ませ、どんな傾向があるのか分析した。これまで放送で流れた歌を作詞作曲して来た人たちがその時代、その時代でどんな思いで作ったのかということを探る試みだ。また、昨年から番組で60年の歌もいろいろ放送して来たが、まだ紹介していない歌を1曲でも多く紹介したい。そして、4、5月に放送する新曲を誰が歌うのかということを番組の中で発表する。そこから61年目が動きだすが、みなさんに長く聴いていただける曲を提供していくという思いは変わらない」と話す。

 これからも「切手のないおくりもの」「想い出に話しかけてみた」のような歌に出合えるに違いない。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

続きを表示

2022年3月2日のニュース