担当記者が見た阪神・藤浪の苦悩 「プロやのに5メートルの距離でワンバン投げて、俺何してんねん」

[ 2020年8月22日 06:00 ]

セ・リーグ   阪神7-4ヤクルト ( 2020年8月21日    神宮 )

<ヤ・神10>ヒーローインタビューに臨んだ藤浪(手前)にチームの垣根を越えて温かい声援が送られる(撮影・小海途 良幹)
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 本当にこれは阪神の藤浪晋太郎が発したのか。今でも自分のノートを見返す言葉がある。キャリア初の未勝利に終わった昨季終了後、何の前触れもなく漏らした。

 「テレビ中継とかゲームの画面を見てたら、バッター打ち取るのって簡単なんですけどね…。いざ、あそこに立つと、すごく難しく感じてしまうんですよ」。ジョークを込めた自虐なのか、真意を測りかねた僕は「そうなんや…」と苦笑いしかできなかった。高校時代は頂点に立ち、プロでもすでに50勝。幾多のアウトを重ね、強打者たちをねじ伏せてきたマウンドは、いつから“難所”に変わってしまったのだろうか。

 「ノーコン」「イップス」「抜け球」…。制球難を露呈し、結果の伴わない姿につきまとった汚名の数々。表向きはポーカーフェースを貫いても、心は激しく乱れていた。「プロやのにたった5メートルぐらいの距離でもワンバウンド投げたり、とんでもない暴投したり…正直、恥ずかしいですよね。投げながら、うわヤバって…。またか…。俺、何してんねんって」

 これまで「挫折」という問いかけに何度も首を振ってきたが、認めたくない事実もあった。「野球を辞めようとかは思ったことないんですけど、どんどん野球が下手になっていきましたね」。築き上げたものが崩れていく絶望は想像に難くない。それでも“下手”だからこそ余計に大切になったものもある。「キャッチボールは仮説と検証の繰り返しなんです。良い時も悪い時も、ずっとそういう意識でやってきました。暴投になっても、原因と答えがあるので」。“量が質を生む”と信じて腕を振ってきた。

 新潟、京都で座禅を組み、正座して写経にも挑戦。自宅には「リリースの確認に良いと聞いたので」とダーツボードも立てかけてある。どんな小さなことでも…すべては野球がうまくなるためだ。

 あの時返す言葉はなかったが、この夜、見せた力投で再確認できた。強く、堂々と…。背番号19にはマウンドでそうあってほしい。(遠藤 礼)

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