【内田雅也の追球】新大砲の敵は「シフト」か? 左投手も苦手ではない阪神・ボーア

[ 2020年2月11日 06:30 ]

ボーアの打球方向
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 阪神の4番(あるいは3番)と期待される新外国人ジャスティン・ボーアについてキャンプ中、多くのは話を耳にする。何しろ、阪神浮沈のカギを握る新大砲は話題の中心である。

 獲得にあたった国際部長の三宅徹は懐かしそうに「昔、勝さんが“いいパワーしているなあ”と話していたのを思い出すよ」と言った。中村勝広がゼネラルマネジャー(GM)をしていた2014~15年ごろの話だ。当時、ボーアは26~27歳でマーリンズで大リーグに初昇格後、主に3Aで活躍していた。15年9月に永眠した中村勝も気にかけていた強打者だった。

 三宅はさらに「典型的なフライボール・ヒッター」と話した。確かに、打撃練習の打球も圧倒的にフライが多い。大リーグ通算6年の「G/F」(ゴロをフライで割った数値)は0・87とフライが多い傾向が出ている。「フライボール革命」が進む大リーグで、その流行の真ん中にいたと言えるだろう。

 気がかりなのは「左投手に弱い」という評判だった。エンゼルスにいた昨年、対左投手の打率・167がそう言わせているようだ。

 聞いた話を頭に入れたうえ、10日のランチ特打で打球の質と方向を図につけてみた。青が対右投手(打撃投手・中井伸之)、赤が対左投手(打撃投手・原田健二)だ。藤川球児との対戦は除いた。○がフライ(ライナーを含む)、×がゴロだ。

 図示してみると、たった49スイングだけでも傾向は浮かび上がる。

 打球方向は左右に散らばり広角に打てている。

 フライ32本に対しゴロはわずか7本しかない。フライのうち11発がさく越えなのだが、右投手から放った9発はすべて中堅から右へ引っ張ったもの、左投手からの2発は中堅から左方向に流し打ったものだった。

 左投手に対して、右肩など体が開かぬよう、反対方向に打とうとしているか。キャンプ序盤、ボーアは「強引にならないよう、反対方向へ打つことを意識している」と話していた。自分を戒めるような、この姿勢はかつてのマット・マートンやアンディ・シーツなどにも通じる。高打率を残せる姿勢だと言える。

 一方、数少ない7本のゴロのうち5本が一、二塁間に転がっていた。三塁前に飛んだのは呼吸が合わず、当てただけの参考外の打撃。もう1本は一塁線へのファウルだ。

 実は、このゴロに「左投手が苦手」の真相が隠れている。ある球界関係者に聞いた話がある。

 「ボーアが昨年、左投手に1割台しか打てなかったのは極端なシフトを敷かれたからだ。安打性のゴロがことごとくアウトになっていた。一方、データ不足なのかシフトを敷かない3Aでは左投手からも打っていた」

 昨年、3Aソルトレークで左投手に・391と右投手(・291)以上の高打率を残している。

 決して左投手が苦手なわけではないのだ。ボーアの真の敵は相手のシフト(つまりデータ分析)なのかもしれない。 =敬称略= (編集委員)

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2020年2月11日のニュース