アラスカ州出身のジャコビーが競泳女子で金メダル “北の国”からやってきたシンデレラ

[ 2021年7月27日 17:33 ]

競泳女子100メートル平泳ぎで優勝した米国のジャコビー(AP)
Photo By AP

 その昔、米国に行こうと思うと航空機は給油のためアラスカ州アンカレッジ経由だった。私もそこに降り立った1人。空港ロビーの壁にはヘラジカのはく製がど~んと置かれていて写真を撮った思い出がある。

 そのアンカレッジから南に200キロ離れた海沿いの漁村がスワード。AP通信によれば人口は2773人しかいない。そして2021年7月26日、東京五輪の競泳女子100メートル平泳ぎで優勝したのは、アラスカ州出身の選手として史上初めて競泳の五輪代表となっていたスワード在住の17歳、リディア・ジャコビーだった。

 「メダルを狙って泳いで“やった”とは思ったけれどまさかそれが金メダルだとは思わなかった。電光掲示板の一番上に自分の名前があるのを見たときには信じられなかった」

 地元メディアによれば、アラスカ鉄道のスワード駅では400人が集まってこのもようを見守っていたそうだ。冬には雪に覆われることもあって米国の中で最も泳ぐことからはほど遠い州で、50メートルのプールがあるのはアンカレッジ市内にあるバートレット高校のみ。スワードで育ったジャコビーの両親はそこに娘を連れていき、サポートを続けた。

 「有名で強い選手というのはたいてい有名で強いスイミングクラブの出身なんだけど、私は小さな町の小さなクラブで泳いでいました。でもどこからやって来ようが、やればできるということをみんなにわかってもらえたんじゃないでしょうか」

 2位となったタチアナ・シューマーカー(南アフリカ)に0秒27差をつけて1分4秒95で優勝。新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われた昨年は2カ月間ほどプールが使えないためにスキーをしていたというジャコビーは、過去における競技人生のどの部分を切り取っても、世界のトップスイマーをしのぐだけの“環境”には恵まれていなかった。

 来年にはテキサス大に進学し、将来はファッション・デザイナーになりたいという異色の競泳選手。スポーツだけでなくバンドでベース兼ボーカルを務めるなど、音楽にも才能を見せている。

 東京五輪で誕生したアラスカのシンデレラ。「誰にも負けない」と信じる意志の強さこそが金メダルを生んだ原動力だった。

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には7年連続で出場。還暦だった2018年の東京マラソンは4時間39分で完走。

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2021年7月27日のニュース