「鎌倉殿の13人」神回連発 三谷幸喜氏が語った海外ドラマの影響 脚本の進化と凄み キャストも「神業」

[ 2022年6月5日 06:00 ]

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第22話。北条義時の館・庭。三浦義村(山本耕史)と義時(小栗旬・右)(C)NHK
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 中盤に差し掛かるNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜後8・00)。脚本を手掛ける三谷幸喜氏(60)の筆が冴え渡っている。“坂東の巨頭”こと上総広常(佐藤浩市)が“非業の死”を遂げた第15話「足固めの儀式」(4月17日)以降、さらに“予測不能のうねり”が激化。本人やキャストの言葉から三谷脚本の“進化”と魅力を探る。

 <※以下、ネタバレ有>

 俳優の小栗旬が主演を務める大河ドラマ61作目。タイトルの「鎌倉殿」とは、鎌倉幕府将軍のこと。主人公は鎌倉幕府2代執権・北条義時。鎌倉幕府初代将軍・源頼朝にすべてを学び、武士の世を盤石にした男。野心とは無縁だった若者は、いかにして武士の頂点に上り詰めたのか。新都・鎌倉を舞台に、頼朝の13人の家臣団が激しいパワーゲームを繰り広げる。三谷氏は2004年「新選組!」、16年「真田丸」に続く6年ぶり3作目の大河脚本。小栗は8作目にして大河初主演に挑む。

 第16話「伝説の幕開け」(4月24日)は木曽義仲(青木崇高)、第17話「助命と宿命」は源義高(市川染五郎)、第20話「帰ってきた義経」(5月22日)は源義経(菅田将暉)、第21話「仏の眼差し」は八重(新垣結衣)と次々に主要人物が“退場”。三谷氏のキャラクター造形、演出、キャストの熱演が化学反応し、その散り際は一際の輝きを放った。

 広常の「手習いと祈願書」、義経の「堀川夜討と正妻・里(三浦透子)の告白」など、史実と創作を見事に融合。兄・頼朝の不興を解くため義経が書いたとされる詫び状「腰越状」は平宗盛(小泉孝太郎)の代筆という“新解釈”。源平合戦のクライマックス「壇ノ浦の戦い」は頼朝・義経に亀裂が入るファクターとして描き、入水伝承がある八重は頼朝との息子・千鶴丸が重なった孤児・鶴丸(佐藤遙灯)を川から助ける作劇。“三谷マジック”“神回”の連続に、歴史ファンからも唸る声が相次ぐ。

 三谷氏は5月4日に放送されたNHKラジオ第1「秋元康の超プレミアムトーク」に出演。作詞家の秋元康氏と対談した。

 【秋元氏】すっごい面白いですね。次週への引っ張りが。それは意識していますか?

 【三谷氏】ありがとうございます。「真田丸」の時から今回までの間で、何が僕の中で変わったかというと(米ドラマ)「ブレイキング・バッド」を見たっていうのが大きいですね。

 【秋元氏】そういう影響を受けているのかなと。「ブレイキング・バッド」とは思わなかったですけど。いわゆるアメリカのテレビドラマ的な「どうなるんだろう」っていうのは、すっごくうまい。

 【三谷氏】面白いんですよ、向こうのテレビドラマを見ると。

 【秋元氏】アメリカのテレビドラマって、やっぱり途中でやめられなくなるじゃないですか。

 【三谷氏】やっぱり連続ドラマだから「来週どうなるんだろう。次、早く見たい」って思わせることがとても大事。例えば「ブレイキング・バッド」とか「FARGO/ファーゴ」とか見ると、本当にやめられないじゃないですか。こういうことなんだなと思って。

 【秋元氏】でも、やっぱり三谷さんがすごいなと思うのは、「ブレイキング・バッド」にしても「FARGO/ファーゴ」にしても、オリジナルじゃないですか。オリジナルだから、どこでどういうふうに終わろうが、「この先どうなるんだろう」ってのも勝手に作れるわけじゃないですか。でも(「鎌倉殿の13人」は)史実に基づいているから、一応こうなるってことは分かった上で「来週どうなるんだろう」っていう切り方が絶妙だなと思うんですよ。

 【三谷氏】本当は歴史物で「来週どうなるんだろう」なんてことはないんですけど(笑)。みんな知っていることですからね。ただ、やっぱりどこで終わらせるとか、終わり方とかは考えますし、もっと言うと、そこから書き始めることが多いですね。

 【秋元氏】みんながこういうこと(史実)だよねって分かってるんだけども、そこに今回は、今までの作品とちょっと違うなと思うのは、歴史物だけじゃない、そこにすごいエンターテインメントが楽しめるんですよね。北条政子を中心とする女性たちがきっとこう思うんだろうなとか、たぶん見ていらっしゃる視聴者が引き込まれる、あるいは、もちろん、もともとが三谷さんは会話(劇)が面白いんだけど、そこがさらに強化されているような気がしたんですけど。

 【三谷氏】僕の今書いているパソコンですけども、テーブルには向田(邦子)さんのシナリオと、あと「仁義なき戦い」のシナリオが置いてありますから。その2つを合わせながら大河書いているのは、たぶん僕だけだろうなと思いながら(笑)。

 【秋元氏】「仁義なき戦い」の菅原文太さんや小林旭さんの決め台詞的なところは(「鎌倉殿の13人」に)感じるところありますね。いい台詞だなっていうのが。今回、特にネットがざわついていますよね。

 【三谷氏】それも、とてもありがたいなと思いますけども。「全部、大泉洋のせい」だって盛り上がっていましたからね。「首チョンパ」があんなにヒットするとは思わなかったですね(笑)。何の気なしに書いてましたけど、それで(あの時代にない言葉と)怒る人もいらっしゃったし。一応、(時代)考証の先生に読んでいただいて、割と細かいチェックを頂いて。好き放題書いているだけじゃないですから。それを通過して台詞になっているわけなんで、考証の先生にも責任はある(笑)。現代語に近い形にするってことが、割とよく言われるのが「それで笑わせようとしている」とか「見やすくなっている」みたいな、いい点であるとか悪い点であるとか言われますけども、それもあるんですけど、それが目的ではなくて、本当は今僕らが使っている言葉と同じ言葉を彼ら(登場人物)が使うことによって「あの時代は今の時代とつながっているんだ」っていうことを実感してもらえると「よりドラマが楽しくなる」「歴史が身近になる」から、そういう言葉を使っているっていうのはあるんですけども。

 三谷氏が挙げた「ブレイキング・バッド」は08~13年に5シーズン(全62話)にわたって放送された米ドラマ。余命2年と宣告された50歳の高校教師が家族のために挑む危険な副業。それは麻薬の精製だった…。13~14年とテレビ界のアカデミー賞「エミー賞」の作品賞(ドラマ部門)に輝いた。

 「真田丸」から“進化”を遂げた三谷脚本。その一端として、海外ドラマ、ホームドラマの名手・向田邦子氏、「仁義なき戦い」の影響を自ら明かした。

 キャストも口々に三谷脚本の魅力を語る。

 放送スタート前、合同インタビューに応じた小栗。初体験の三谷時代劇に「今まで大河ドラマや時代劇には『ちょっと、という言葉は絶対に口にしてはいけない』と思って参加してきましたが、今回の三谷さんの脚本には出てくるので『言っていいんだ』と新鮮な感じはありました。自分の『ちょっと待ってください』や、頼朝を演じる大泉(洋)さんの『ちょ、ちょ、ちょっと、いいかな』だったり。大泉さんも『まさか、こんな台詞を大河で言うとは思わなかった』みたいなことは仰っていましたね」と明かし「その時代の言葉があるので、時代劇はアドリブを挟みにくいんですが、今回はその縛りが強くない分、面白くなったシーンもあると思います。特に序盤は、北条家のホームドラマ。視聴者の皆さんには、三谷さんのユーモアを楽しんでいただければ」と呼び掛けた。

 序盤、八重の夫・江間次郎役を好演した名バイプレーヤー・芹澤興人は三谷作品初参加。「序盤ということもあるかと思いますが、物語を前に進める推進力がとにかく凄いと思いました。これだけたくさんの登場人物がいて、それぞれの人生を描きながら、エンターテインメント性も入れてきていますし、それぞれが最短距離で最高到達点まで行く――という印象です。神業に近いと思います」と感嘆した。

 「読む分にはとても楽しいのですが、芝居も最短距離で最高到達点まで行ってくれ、ということなので、いざ自分が芝居をするとなると、相当な技術なのか人間力なのか、武器になる“何か”が必要だなと感じました。出演している役者さんたちは皆さん、それぞれの何かを持って挑んでいるので、見ていてとても勉強になります」

 第10話(3月13日)と第11話(3月20日)のみながら、頼朝の異母弟・義円役で存在感を発揮した成河(そんは)。舞台を中心に活躍し、演出も手掛ける実力派も、意外や三谷脚本は初体験。三谷氏主宰の劇団「東京サンシャインボーイズ」(1983~94年、現在は充電期間中)もビデオで見るなど「ただただファンだったので、うれしかったです」と喜び、こう実感した。

 「演劇って、ややもすれば自分とは遠い世界の出来事に見えることもあるじゃないですか。翻訳物だったり。そういう中で、三谷さんは何が凄いかと言えば、いつも“隣の人”を描いていると思うんです。演じる側も、見る側も“登場人物のこの感覚って、分かるよね”と。例えば、一見自分とかけ離れた政治の世界でも、三谷さんの作品になると、グッと身近に感じられますよね。どんな題材でも、そのダイナミズムは意地でも手放さない。そして、それは決して簡単なことじゃないですから、本当にリスペクトしています」

 「今回も800年以上前の話。格式も時代劇の美しさの一つだと思いますが、三谷さんは800年以上前だろうが、何だろうが“それって隣の人と一緒だよね”“現代の人と同じ嫉妬だよね”という描き方。本当に凄いと思いますし、今回、そこに呼んでいただけたことは何より光栄です。実際に演じてみると、取り繕う必要が何もない、しゃべりやすい台詞なんです。もちろん、所作の先生に教わった時代劇のベースを実践した上で、三谷さんが書かれた台詞をどういうふうに口にしていくか。日本語というのはとても難しくて、どういうしゃべり方をするかが、身体の動きに結び付いてしまいます。三谷さんの言葉は本当に会話がしやすくて、演者の感性も開かれていくと思いました。演じていて、とても楽しかったです」

 成河からも飛び出したキーワードは「身近」。練りに練られた台詞と作劇が、見る者を約800年前への“共感”に誘(いざな)う。

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