史上初 7冠“二分”王将戦掛川の陣 渡辺3冠「芸」に駆ける 藤井4冠「技」ぶつける

[ 2022年1月9日 05:30 ]

第71期ALSOK杯王将戦7番勝負

掛川市内にある大日本報徳社の大講堂で写真に納まる渡辺王将(右)と藤井竜王(撮影・西尾 大助)
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 渡辺明王将(37)=名人、棋王含め3冠=に藤井聡太竜王(19)=王位、叡王、棋聖含む4冠=が挑む将棋の第71期ALSOK杯王将戦(スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社主催)7番勝負は9日、静岡県掛川市の掛川城二の丸茶室で行われる第1局で開幕する。前日の8日に掛川入りした両者は対局場を検分後、おのおの記者会見。史上初となった「3冠・4冠対決」の決戦ムードが高まってきた。

 円熟のマイスターVS早熟のマエストロ。日本国中が待ち望む頂上決戦、ついに開幕だ。

 渡辺「検分と記者会見をやって、いよいよ(王将戦が)始まるなと感じている」

 藤井「注目されているシリーズ。それに応えられるように頑張りたい」

 天下分け目の決戦を前にした両雄の背後からはメラメラと揺れるようなオーラが漂っている。

 東海道新幹線で東と西から掛川入り。駅構内からホテルへ徒歩の移動時はつかず離れず、視線を微妙にそらしながら無言の行進だ。タイトル戦ではよくある光景。市内の大日本報徳社で行われた会見での写真撮影は握手もポーズもなく、シンプルな姿に終始した。これも戦いを控えた猛者同士の最低限のマナーだ。

 タイトルホルダーの渡辺にとって、掛川はホームに等しい。過去6度の対局は全て制している。いずれも番勝負の行方を左右する開幕局だ。「(自分にとって)数少ない縁起のいい場所。いいイメージを持って対局に臨めます」と胸を張るミスター掛川。盤外でのデータを重視しない超現実主義者の渡辺にして好印象を抱くオープナーを迎える。

 一方で藤井。渡辺の掛川全勝を会見で伝えられると「今初めて伺いましたが、あまりうれしくないことを聞いてしまいました」と即答した。だが、目尻は明らかに下がっている。勝負に影響を与えるほどの実績とは捉えてないのだろう。「自分自身は掛川が初めて。フラットな気持ちで戦いたい」と軽やかに続けた。

 4連覇を狙う渡辺は、今期の記念扇子に「芸」と揮毫(きごう)。これを見た藤井は即座に「技」としたためた。そのココロは?「渡辺王将の戦略に対応して戦術をぶつけたいという意味なんです」。ボールは相手に持たせ、一度攻めさせてからカウンターを見舞う。リアクションサッカーのような戦い方だ。開幕を前に、心理面のバトルはすでに始まっている。

 藤井戦2勝8敗。過去の棋聖戦では2度にわたり屈している渡辺も、手をこまぬいているだけではない。藤井が研究に利用するという深層学習系ソフトを最大限走らせることができる高額なコンピューターを導入したのは有名だ。

 「11月に藤井竜王の挑戦が決まってからは、準備が漠然から具体的に変わった。凄く大きく変わったというのはないが、成果がどれだけ出るか。無責任かもしれないが、それはありますね」

 対策は盤上だけではない。体調維持のため始めたランニングは極度の寒がりゆえ冬場は控えてきたのだが、ここに来てその封印を解いた。「年齢もありますし、走っている間は脳が活性化する。将棋のことも考えながら走ってます」。一歩一歩を踏みしめながら、頭脳は打倒・藤井に向けフル回転していたはずだ。

 シリーズを制すればタイトル通算30期に到達する渡辺。史上最年少挑戦者の藤井は、これまた史上最年少での5冠を狙う。将棋界の全8冠中、7冠をむさぼり合う両雄の戦いは桶狭間か関ケ原か。はたまたワーテルローかゲティスバーグか。間違いなく歴史に刻まれる戦いはきょう9日、午前9時に幕が開く。(我満 晴朗)

 ≪「光栄」「和服楽しみ」ファンも興奮≫多くの将棋ファンが大一番の行方を見守っている。JR掛川駅にいた60代男性は、両対局者の掛川入りを見るためだけに浜松市から来たという。「5歳から将棋が好きで、藤井先生と渡辺先生のファン。今回見られて光栄です」と話した。クラウドファンディングのリターンで前夜祭に参加した千葉市の30代女性は「藤井先生のファンで、明日の生和服も楽しみです」と声を弾ませた。

 ≪元日紙面反響に感謝 スポニチ小菅社長「記憶に残る勝負を」≫掛川グランドホテルで行われた前夜祭には、掛川市の久保田崇市長、小菅洋人スポーツニッポン新聞社社長、佐藤康光日本将棋連盟会長らが出席した。あいさつに立った小菅社長は「元旦の紙面で2人には戦国武将の格好をしていただいた。読者から大きな反響があった」と感謝を述べ「ぜひ記憶に残る勝負を見せてほしい」とエールを送った。

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