球拾い―大リーグのこぼれ話伝えます―

新鮮に感じる30年前の61号本塁打を放ったロジャー・マリスの逸話

[ 2022年10月2日 05:30 ]

 ア・リーグMVPはヤンキースのアーロン・ジャッジか、エンゼルスの大谷翔平の連続受賞か。昨年の満票は無理だが、大谷の連続受賞が有力と思う。昨季の栄光を背負って自分の前に浮かぶ影を追う。この難しい課題を笑顔でやっている。

 30年前、大リーグの逸話集を書いた。その中でベーブ・ルースのシーズン60本の大リーグ記録を、ヤ軍後輩のロジャー・マリスが破った挿話に触れた。資料を集め現地の記者にも聞き、詳しく書いたつもりだが、その試合を見ていた、という70歳の読者から手紙をもらった。「ボールを捕ったファンには5000ドル(当時のレートで約180万円)の賞金が出ていて、ボールを捕ったトラック運転手が受け取りマリスにボールを渡し、サインボールと交換した」というのだ。「現場にいらした人にはかないません」と礼状を出したのを思い出す。

 驚いたのは9月29日付のニューヨーク・タイムズ紙電子版。前出読者の話の再現だ。マリスが対戦相手のレッドソックスの捕手に語りかけた言葉。「あの青年をどう思う?彼は結婚の準備中という。彼は、賞金が使えるのに“何もいらない。このボールをあなたに受け取ってもらいたいだけ”と言う。この世の中には素晴らしい人間が残っているということだ」

 ヤ軍ブルペンではエースのホワイティ・フォードが「マリスはここに打ち込むことが多い。どの位置が良いか、何しろ賞金5000ドル」と騒いでいたというのが笑わせる。なんとも人間くさい話が、データ分析数字と英語略称いっぱいの記事を読まされる目に新鮮だ。来季からは秒単位で試合進行の新ルール、ついていけるか心細い。(野次馬)

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