球拾い―大リーグのこぼれ話伝えます―

“球界の新バイブル”は心理学を学ぶ一冊

[ 2021年3月14日 02:30 ]

 「各球団のフロントの間で“バイブル”扱いの本」とニューヨーク・タイムズ紙は紹介した。02年ノーベル経済学賞受賞のプリンストン大学名誉教授ダニエル・カーネマン氏の「ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?」だ。

 心理学の本で翻訳出版は9年前。文庫の上、下で計800ページ超。人間の素早い(ファスト)直感と遅い(スロー)論理の考察だ。米航空宇宙局(NASA)出身のオリオールズのシグ・メジャルGM補佐は「会う人全てに薦めた。すでに読み“人生が変わった”というGMもいた」。多くの野球人が「野球組織、運営改革への刺激を受けた」というのだ。

 実はこの本、数年前に挑戦し、上巻で降参したのだが、記事に寄せられた野球ファンの投書が泣かせる。

 「ヤンキースの殿堂入りの名捕手で迷言でも有名なヨギ・ベラいわく。“考えて打てだと?2つのことを同時にできるか”。早く、遅く、無理な話だ」。「オリオールズ・ファンとして一言。シグ・メジャルGM補佐よ、理屈は結構。いい選手を見つけてこい」。「ニューヨーク市民として言うが、コロナ禍以前から球場での試合が楽しめない。法外なチケット料金。ビールは10ドル。イニングの合間に巨大なスクリーンからの騒音。改革だ」。「データが野球を駄目にし、今度は心理学か」。

 123通の投書のほとんどが行動経済学、認知心理学などの術語入りで「現代の古典」との礼賛で占められる。ささやかな純野球投稿はご覧のような嘆き節。

 記事を書いた記者は87歳のカーネマン名誉教授にインタビューを申し込み断られた。「野球はよく知らない」と。野球に9行触れただけの“球界の新バイブル”は勉強熱心なフロントたちの片思いの産物だった。(野次馬)

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