球拾い―大リーグのこぼれ話伝えます―

“専門性=進歩”米国社会の在り方にも一石投じた「世界の大谷」

[ 2021年9月19日 05:30 ]

 「ペナント・ドライブ」、「サラリー・ドライブ」。シーズン末に使われる野球業界用語だ。「ペナント・ドライブ」は優勝チームに渡される三角旗を目指しチーム一丸の熱い姿をさす。「サラリー・ドライブ」は、ポストシーズン出場絶望のチームの選手たちが自分の給料や翌年の去就に心を悩ませ、消化試合をこなすうらぶれた姿…。

 勝率5割に届かないエンゼルスは、「サラリー・ドライブ」になって不思議はないチームの典型だ。ところがスタンドは陽気な観客が詰めかけ、メディア関係者の数も減ることはない。大谷翔平のおかげだ。「野球とはチームの一員としてプレーする個人スポーツ」といったのは3代前のコミッショナーだが、1人の傑出した選手の言動がチームを変えるのだ。

 ベンチの大谷の周囲はいつも笑顔がある。それ以外はタブレットで“野球の勉強”をしている。こんな選手は見たことがない。大谷の生活の全てが野球にささげられているのは、テレビ中継画面を見ているだけで想像がつく。

 大谷に関する記事は膨大だが、14日付のスポーツ・イラストレーテッド誌電子版の「大谷ルール」は面白かった。いきなり「井の中の蛙(かわず)大海を知らず」の英訳、面食らった。「我々米国人は野球を知っていると思っていたが、実は何も分かっていなかった」というのだ。米国社会は競争に勝つため専門性を高めようとする。専門性を進歩と誤解した。「それは米国の狭い心だった」

 大谷の二刀流は野球界ばかりでなく、社会の在り方に新鮮な視点を持ち込んだ。

 もちろん大谷が意識したことではない。タイム誌は「世界に影響を与えた100人」に大谷を選んだが、当然の選出と思った。(野次馬)

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