球拾い―大リーグのこぼれ話伝えます―

経営断念したカブス傘下3A旧オーナーの計らい

[ 2022年1月16日 05:30 ]

 全米のオミクロン株感染者は1日100万人超で不安が国中を覆い始めた。大リーグはオーナーがロックアウトで選手を締め出す冬眠状態。先行き不安が募るところに、ヤフースポーツとニューヨーク・タイムズ紙が、マイナー球団売却ニュースを年をまたいで相次いで報じた。カブス傘下の3A、アイオワ・カブス(本拠地人口30万人のアイオワ州都デモイン)がハリウッドのスポーツ・芸能企業に身売りした。フルタイムの従業員23人は当然解雇だが、そこに心温まる話を見つけたのだ。

 売却手続きを終えたオーナーのマイケル・ガートナー氏(83)は12月28日夜、全従業員を球場ラウンジに集め、お別れ演説をし、「新しい名刺を渡す」と全員に封書を手渡した。シャツに付いたホットドッグの汚れを落とす者、ビールをすすっていた者、封筒を開けると誰もが沈黙し、すすり泣きが…。中身は小切手だった。勤続年数に応じ4000ドル(約46万円)から7万ドル(約800万円)まで、23人への総額は60万ドル(約6800万円)になったという。

 ガートナー氏は叩き上げのジャーナリストで、新聞記者にとって最高の名誉であるピュリツァー賞受賞記者(97年評論・社説部門)でもある。氏は生まれ故郷のデモインを深く愛し、少数の仲間とアイオワ・カブスを22年間所有してきた。しかし、大リーグ機構によるマイナー40球団のリストラ、コロナ禍による20年シーズン無試合(この時も従業員を守る)等が続き、球団経営を断念した。「私が望むのは今回の“名刺”を、苦楽をともにしてきた従業員たちが他の土地で探さずに済むよう役立ててくれればうれしい」とガートナー氏。球史初の快挙としてお伝えする。(野次馬)

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