球拾い―大リーグのこぼれ話伝えます―

防護ネットも越える「ボールトスの精神」

[ 2022年8月7日 05:30 ]

 全ての選手が「ファンにボールをトスするのが好きだ」と言う。練習中でもイニング交代の時でも、スタンドの少年、少女のファンとアイコンタクトしボールを渡す相手を確認して軽くトス、「メーク・ヒズ・デー=忘れられない楽しい日をつくってやる=」わけだ。

 ところが近年、この大リーグの大切な儀式のボールトスが難しくなったとニューヨーク・タイムズ紙。原因は15年に大リーグ機構が全30球団に要請した防護ネットの拡張だ。従来のバックネットの端からダッグアウトまでの防護ネットでさえ「見にくい」と不評だった防護ネットは、瞬く間に全球場に広まった。「内野線まで」のガイドラインだったが、ヤンキースやメッツは外野線まで延長した。ファウルボールや、折れたバットの破片などでの観客の負傷事故が多数発生していたのだ。

 「この処置には大賛成だ。防護ネットが高いからボールをうまく上に投げたり、ベンチの屋根を転がしたりする技術が必要になったけれど」と選手たち。アイコンタクトした子供が防護ネットまで来て、選手がネットの隙間にボールを押し込む“手渡し”も誕生した。

 「ファンを選ぶプレッシャーが嫌だ。チームメートに渡してしまう」と言う選手もいるが、「グラブを持った子供がいたら最高だ。渡したボールは彼らの宝になるのだから。サンキューには、こちらもサンキューだ」。防護ネット延長要望は、コミッショナーのロブ・マンフレッド氏には冒険だった。シーズンシート契約の富裕層、球団のお得意さまが最も影響を受ける。有力球団と選手会が支持しての実現だが、マンフレッド氏の功績なのは間違いない。(野次馬)

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