マリナーズ21年ぶりプレーオフへ 新人ロドリゲスが胸に刻む当時の新人イチロー氏の言葉

[ 2022年7月26日 11:38 ]

マリナーズのロドリゲス(AP)
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 大リーグの後半戦ではやはりエンゼルスの大谷が2年連続MVP受賞なるか、パドレスのダルビッシュがプレーオフで活躍できるかといったあたりに注目が集まる。日本選手以外では、実に21年ぶりのプレーオフを目指すマリナーズを引っ張るフリオ・ロドリゲス外野手がどこまで躍進するかも楽しみだ。

 今年のオールスターで最も知名度を挙げた若手スターはロドリゲスだったかもしれない。ルーキーながらホームランダービーへの出場を果たすと、第1ラウンドでいきなり今大会最多の32発、準決勝でも31発を打って3連覇を狙ったメッツのアロンソを撃破。決勝ではナショナルズのソトに敗れたものの、21歳の若者はその伸びやかな才能を大舞台で存分にアピールしてみせた。

 このロドリゲスにクラブハウスで話を聞いたのは、5月下旬、マリナーズがボストンでレッドソックスと対戦したシリーズ中のことだった。春季キャンプ中はイチロー氏のキャッチボールのパートナーを務め、「イチローの秘蔵っ子」として日本メディアの間で話題になってはいた。ただ、当時はまだ3本塁打と打棒爆発していたわけではなく、ブレイク前の初々しさを漂わせていた記憶がある。

 フェンウェイ・パーク名物の「グリーンモンスター」の中に初めて入って壁にサインをした際「(名前に添える)日付を間違えちゃったよ」と、うれしそうに笑った。イチロー氏の有名なルーティンについて問われると、「イチローはもう引退したのに、まだ規律正しく練習、ジムでのトレーニングをこなしている」と驚いたように話していた。そうやってフレッシュな面を見せた一方で、そこで感心させられたのは、この若さで地に足がついたコメントを残せることだった。

 「メジャーでプレーするためのアジャストメントが徐々にできてきていると思う。感情を抑制し、他の選手たちと競い合い、自身の力を証明するだけ。当然メジャーのレベルは高いから、ここで活躍するには精神面が大事だ。みんな才能は持っているから、メンタル面でどう充実させるかが重要になってくる」

 あれから約2カ月――。抜群の素質を持った若武者は本人の言葉通りにアジャストメントを進め、精神面でも落ち着いてきたのだろう。5月下旬ごろから猛然と打ち始め、5、6月と2カ月連続でア・リーグ月間最優秀新人を受賞。前半戦だけで16本塁打、21盗塁をマークし、オールスターに選出されるまでに成長した。

 長い低迷にあえいできたマリナーズは、ついに待望のスーパースター候補を手にしたのだろう。走攻守がそろったその実力はソト、ゲレロ(ブルージェイズ)、ディバース(レッドソックス)といった同じドミニカ共和国出身のヤングスターたちに勝るとも劣らないものがあり、順調に育てばとてつもない選手になっていきそうだ。

 もちろんこうして評価、知名度が上がればマークが厳しくなり、周囲の誘惑も増え、安定して力を発揮するのは難しくなるもの。ただ、ロドリゲスは大丈夫なのではないかとも思える。5月下旬の取材時、「イチロー氏から受け取った最高のアドバイスは」という私の質問に対し、こう答えていたからだ。

 「イチローとは多くのことを話すけど、中でも記憶に残っているのは“規律を保て(Stay disciplined)”“一貫性を持て(Stay consistent)”といった言葉かな。それが最も大事なことなんだ。イチローはもう40を超えているのに、安定した形で物事をこなしている。本当に信じられないよ…」

 まるでメトロノームのように日々同じ準備をこなしたイチロー氏にならうかのように、ロドリゲスも自身のルーティンをしっかりと確立してきているという。だとすれば、視界は良好。ここに来て左手首のケガでIL(負傷者リスト)入りの可能性も出てきたが、若さゆえに回復は早いはずで、すぐにまた元気な姿を見せてくれるだろう。マリナーズがイチロー氏の1年目にあたる2001年以来のポストシーズン進出を果たすとすれば、その21年後に現れた新たなスーパールーキーの安定した活躍が不可欠なはずだ。(記者コラム・杉浦 大介通信員)

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