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正真正銘“東京イワナ” 3時間歩きたどり着いた秘境

[ 2019年8月3日 07:22 ]

3時間歩いてたどりついた渓流で。左から金浜さん、白鳥さん、筆者
Photo By スポニチ

 【奥山文弥の釣遊録】これまでさまざまな研究をサケマス魚類で行ってきた中で一番凄いなと思うものが始まりました。

 東急電鉄グループが持つ公益財団法人「東急財団」環境部では多摩川の研究者に助成金を出しています。水質調査や周辺の動植物調査などです。

 その中の「多摩川水域の魚類の遺伝子研究」では移植群以外の独自遺伝子を持った魚が残っているのかを調べることになりました。つまりほとんどが放流魚、移植魚だと言われている多摩川の魚の中に、多摩川オリジナルの繁殖を続けてきた系統群がいるのかという調査です。

 これらの系統群を遺伝的な汚染を受けていない魚と言いますが、簡単に純天然魚と言えばいいと私は思います。

 ヤマメやイワナは山奥に隔離されたため、まだ純天然魚が残っている可能性が高いのです。それを探すためにはどうしたらいいのか?まず私は日原川にある管理釣り場「東京トラウトカントリー」のオーナー榎沢弘さんを訪ねました。彼は東京の秘境である日原川の山奥を最も知り尽くしたグループの一人です。

 山奥の釣りは公開するとすぐに荒れてしまうので表にはなかなか出てきませんが、彼らはよく知っています。そして事情を説明すると快諾され、仲間の金浜宏志さんを紹介していただきました。

 金浜さんは私に「希望している場所は奥山さんの体力では無理だから、可能性のある比較的楽な場所へ行きましょう」と提案してくれました。

 訪ねたのが今回の場所。車を降りて片道3時間歩き、4時間釣りをし、また3時間歩いて帰るというものでした。

 調査に同行したのは遺伝子解析で博士号論文を書いている北里大海洋生命科学部増殖学科の白鳥史晃さん。この3人中、体力的に私が一番厳しかったものの、谷を越え、尾根を越え、裏側の沢に出ると元気になりました。金浜さんはテンカラ、白鳥さんは餌釣り、私はフライでした。

 ここから釣り開始という場所で下流側に良さそうな場所を見つけ、ダウンストリームでフライを流すとすぐにイワナが食いついてきました。
 正真正銘の“東京イワナ”です。多摩川本流にいる放流魚が野生化したものとは違います。ここで生まれ、ここで育った魚です。
 釣った魚は遺伝子を解析するために測定してから脂びれを切ってリリースしました。

 さすがは東京の秘境、と感動したのもつかの間、2匹目はなかなか釣れませんでした。

 フライへの反応は出てきて見破るというのではなく、なかなか出てこない。出れば食いついてきました。釣って持ち帰られているので数が少ないのではないかと思いました。2匹目を釣ったのは1時間後でした。

 絶対にいないわけないと思われるポイントではドライフライを散々流した後、金浜さんがテンカラでちょっと沈めて動かすと釣れたのでショックでした。そこで私もフライロッドに逆さバリと呼ばれるテンカラの毛バリをつけて沈め、同じように動きを加えてみると「ククン」と小さな当たりが伝わり、イワナが掛かりました。(東京海洋大学客員教授)

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