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【コラム】海外通信員

ドイツ敗退を受けて リヴァウドの叫び「5回優勝のブラジルをリスペクトして欲しい」

[ 2018年6月30日 07:00 ]

6度目の優勝を信じて応援するブラジル代表サポーター
Photo By スポニチ

 前回覇者のドイツがまさかのグループリーグ敗退となってしまった。4年前のブラジルW杯準決勝ドイツとブラジルの7−1を思い出した人も多いだろう。サッカーの歴史において衝撃的なスコアとなり、この4年、ブラジル人にとって『7−1セッチ・ア・ウン』は呪いの言葉の如くまとわりついてきた。2年前のリオ五輪決勝でドイツを倒し悲願の金メダルを獲得したが、ブラジル人にとって五輪サッカーはあくまでも五輪の存在にすぎず、セッチ・ア・ウンの呪縛からは解かれなかった。

 しかし、ついにその呪縛から解き放たれる時が来た。ロシアW杯グループリーグで、ドイツが韓国に2−0の完敗を喫し敗退が決まった時だ。

 ブラジルでは前回覇者の敗退をセッチ・ア・ウンに並ぶ恥辱と皮肉ったり、ジョークにしたり、自国の決勝トーナメント進出以上に話題になった。

 このドイツの敗退について、声を挙げたのが1999年FIFA世界最優秀選手賞=バロンドールに輝いた元ブラジル代表のリヴァウドだった。インスタグラムに4年間思い続けた悔しさを吐いた。

 「この敗退したチームが、ブラジルが見習わなければいけないチームだったのかい?ブラジルが7−1で負けたから、これまでやっていたことすべてが間違っていたってことなのか?欧州に勉強しに行かない監督たちを吊るし上げなければいけなかったのかい?学び、成長することは必要なことだけど、この4年間というもの、このグループリーグ敗退の前回覇者の計画、サッカーをお手本にしなければならないと、ブラジルのサッカー界で働くプロたちは強いられてきた。もっと彼らをのことを認めて欲しい!ブラジルは世界で唯一の5回世界王者になった国なんだ。もっとリスペクトを持ってもいいんじゃないか?だから、僕はずっと7−1はあくまでもアクシデントなんだと言い続けてきた。ブラジルだけが5回優勝しているんだ。少なくとも2022年まではブラジルこそが世界で最強の国であるのだから。」

 リヴァウドはすべてのブラジルサッカー界で働く人たちの気持ち代弁した。バルセロナ、ミランと活躍し、ブラジル代表としてW杯優勝を成し遂げたリヴァウドだからこそ言えた言葉だった。1回のアクシデントでブラジルのサッカーを全否定されたことに悔しい思いを抱えてきたのだ。サッカーだけに限らず、スポーツは勝ったり負けたりするものだ。なぜブラジルのサッカースタイルが遅れてるとか間違っていると非難され、欧州至上主義を強いられなければならないのだろう。どの国も足を止めることなく成長をしてきている。世界のレベルは均衡してきた。それでも、ブラジルが世界の舞台から大きく後退したわけじゃない。経済的な停滞は事実だ。大会の運営の不備はあるし、ビジネス、マーケティングの遅れはある。しかし、サッカーの質まで一緒くたにする必要はない。リヴァウドの怒りは最もだ。選手の育成に関しても、ブラジルの育成方法は間違っているなどと疑問が投げかけられたが、もしそうなら、なぜ世界を代表するビッグクラブにブラジル人の選手がこうもたくさんいるのだろう?

 個人技だけの時代など、今のブラジルでももうない。もちろん、ブラジルサッカーの魅力であるテクニックのスピリットは持ち続けているが、戦術指導は育成部で当たり前のように行われている。常に学び進化しようと努力しているから、新たな才能だって現れる。未来のスター選手たちを育てながらも、巨額サラリーをもらうこともなく、影でブラジルサッカー界を支える多くの指導者たちにとって、このドイツの敗退はどれほどほっとしたことだろう。自分たちのやっていることは間違いではないと証明してもらえたようなものだった。

 ブラジルが今回優勝するかしないかは、それこそ勝負の世界のことで、誰にもわからないし、そんな簡単なことではない。しかし、常に一定のクオリティーを保ち、これまでに5回もの優勝をしてきたことは驚異的であるのだ。

 そして、同時に今回のドイツの場合もドイツサッカーを否定する必要はない。4回優勝、4回準優勝、グループリーグ敗退1回のみのの歴史、伝統、現在を全否定する必要はない。このW杯では結果が残せなかったけれど、彼らが国の誇りと情熱を持って取り組んだことはこれまでと変わりないのだから。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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