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【コラム】海外通信員

偉大な選手たちのセカンドキャリアがスタート

[ 2021年1月16日 11:00 ]

 アルゼンチンサッカー界では昨年、いくつもの、様々な「別れ」があった。ディエゴ・マラドーナに続いて元アルゼンチン代表監督のアレハンドロ・サベーラが天に召され、パブロ・サバレタ、ハビエル・マスチェラーノ、フェルナンド・ガゴら2000年代の代表チームを支えた名選手たちが現役生活に終止符を打った。新型コロナ禍による7ヶ月間もの休止期間、無観客試合が続く日々、それによる各クラブの財政難も重なり、2020年はアルゼンチンのサッカー関係者及びファンにとってネガティブな印象の強い年となってしまった。

 去ってしまった人、失われた時間を取り戻すことはできない。なかなか収束しないコロナ禍の脅威による影響も今後しばらくは続くだろう。

 だが、引退した選手たちにとっては新たなキャリアをスタートさせる転機でもある。前述の3人はいずれもそれぞれの所属先でキャプテンを務めてきたリーダーであることから、今後はその経験値を指導者として伝えることのできる貴重な存在として期待されている。

 だが、アルゼンチン国内では指導者間の競争も非常に激しい状況にある。以前から優れた指導者を次々と生み出し、世界各国でアルゼンチン人指導者が活躍してきたが、現在は若手監督たちの著しい台頭や隣国ブラジルでの外国人監督ブームも手伝い、「元アルゼンチン代表選手」というだけですぐに職を得ることはなかなか難しい。

 そのような背景を考慮した場合、AFA(アルゼンチンサッカー協会)がマスチェラーノを代表チームの「メソッド及び開発部門」の責任者に就任させたのは賢明だった。マスチェラーノがこの役職に就くためにどこでどのような資格を取得したのかはまだ公表されていないが、AFAとしては彼ほどのキャリアを持った人材を何らかの形で代表チームのスタッフとして留めておきたかったのだろう。個人的には監督としてのマスチェラーノを見てみたいという気持ちがあり、いつかはそれが実現することを期待しているのだが。

 一方ガゴは、そのような状況下でも引退後まもなく監督に転身することを宣言。当初は親友ガブリエル・エインセのアシスタント・コーチになるという話もあったが、その後インタビューでかつてのチームメイトだったフェデリコ・インスーアと組んで最初から監督として指導の道に進む意思を自ら明らかにした。国内の一部のメディアは、インスーアの古巣であり、エインセが監督を務めたこともある名門アルヘンティノス・ジュニオルスから早速ガゴにオファーがあったと報じている。

 すでにアルゼンチン国内では前述のエインセをはじめ、マルセロ・ガジャルド(リーベルプレート監督)やエルナン・クレスポ(デフェンサ・イ・フスティシア)といった元代表選手たちが指導者として高い評価を得ており、ガゴが彼らと比較されることは確実だ。さらにアルゼンチンのクラブでは結果主義と政治的な問題が常につきまとうため、シーズンの途中で解雇されるケースも多い。それでもあえて厳しい挑戦に身を投じる決意を下したガゴには尊敬の念を禁じ得ない。偉大な選手たちのセカンドキャリアがスタートする2021年。実に楽しみである。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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