【コラム】海外通信員

本田のボタフォゴデビューと、新型コロナがついにブラジルにも

[ 2020年4月2日 09:00 ]

 2020年2月末、ブラジルはカーニバルで盛り上がっていた。その頃、地球の反対側のアジアでは、新型コロナウィルスとの戦いの真っ最中であったが、ブラジル人にとっては、まだまだ遠い地域の、別次元の話しのように誰もが思っていた。

 あれからひと月後、時間差攻撃で新型コロナは、南米にもブラジルにも到着し、猛威を振るっている。

 ブラジルはサンパウロ、リオ始め都市は3/23から外出禁止となった。学校は休校になり、オンライン授業に切り替わり、企業はテレワーク、ショッピングセンターや全ての商店(スーパー、薬局、ペットショップなど生活必需品以外)、レストラン(テイクアウト&デリバリーはOK)閉鎖となり、街から人が消えている。イベントはもちろんキャンセル。人が集まることも禁止だ。スーパーに行く場合もソーシャルディスタンスを守らなければならない。

 サッカー界も南米大陸のリベルタドーレス杯、国レベル、そして、州レベルでも一切の大会は停止となっている。

 まさかこんな日が来るとは誰も思わなかっただろう。

 今から2週間前、まだブラジルでは人々の意識が新型コロナに対して全面的戦いを挑むちょっと前のことだ。大会が停止になる数日前にボタフォゴの本田圭佑選手は公式戦デビューを果たした。2月7日にリオの空港に降り立ってからひと月が過ぎ、ついに待ちに待ったデビュー戦が3月15日、リオ市のボタフォゴホーム、ニウトン・サントス・スタジアムで行われた(ニウトン・サントスはボタフォゴ、ブラジル代表の英雄的SB)。

 ボタフォゴはこの時、リオ州選手権とコッパ・ド・ブラジルの2大会を戦っていたのだが、この試合はリオ州選手権後半戦の対バングーだった。ボタフォゴはリオ州選手権前半戦で準決勝に残れず、後半戦で監督をパウロ・アウトゥオーリに変え、本田というスター選手の加入でなんとか盛り返したいところだった。バングーは同市内のフラメンゴ、フルミネンセ、ヴァスコの全国レベルではないが、1904年創立のリオの伝統的クラブの一つだ。

 さて、このバングー戦の2日前に、ブラジルでも新型コロナへの対策が本格化してきて、急遽無観客試合で行われることが決まった。金欠のボタフォゴとしては、本田人気で試合に多くの観客を集め、収入を少しでも増やしたいところだったが、いかんせんウィルス対策という現実を受け入れるしかなかった。

 ボタフォゴメンバーは啓蒙の一端としてマスクをつけ、「ウィルスから身を守ろう。この戦いは我々みんなのものです。」というバナーを持って入場した。

 本田はおなじみの背番号4番、スタメン。4-2-3-1のトップ下右中盤として前線と中盤の選手にパスを出してチャンスメーカーとなった。

 入団記者会見で「前線には若くていい選手がいるので、自分は中盤でゲームの組み立てをする。」と言っていた通りとなった。そして、きわめつけは前半28分のPKをきっちり左足で決め、第一キッカーとしての役目を見事果たした。試合は、バングーが後半に同点に追いついたため白星デビューにはならなかった。

 この日は無観客試合のみならず、試合後のミックスゾーンも記者会見も一切開かれなかった。そして、これを最後にボタフォゴの、リオの、ブラジルのすべてのサッカーの試合は新型コロナ感染防止のため停止となったのだ。

 試合の翌週の3月23日からサンパウロ州はじめ各州で非常事態宣言が出され、不要不急の外出禁止となり、新型コロナ感染拡大を阻止すべく大胆な処置が取られている。

 サッカー界の動きも早かった。サンパウロ市内で言えばサンパウロ、パルメイラス、コリンチャンスなどがスタジアム施設をウィルス対策の仮設施設として使って欲しいと申し出たのだ。さらに、サンパウロ市は爆発的感染拡大になった場合、既存の病院では患者を収容しきれないと計算し、市営のパカエンブースタジアムを仮設病院にすることにした。

 これは東京で言うなら、国立競技場を仮設の収容施設にするというようなものだ。わずか1週間ほどで内部にパーテーションが敷かれ、芝生の上にも施設が建てられてた。サンパウロ市はパカエンブースタジアムとアニェンビー催事場の2カ所で軽症患者のための2000床を用意するという思い切った手段を取った。リオ市もサッカーの聖地マラカナンスタジアムの敷地内に(ピッチではない)400床の仮説病院を作り始めたところだ。リオ州はその他8箇所で計1800床を用意する。

 3/31までの公式発表ではブラジル全土で5717感染確認、201死亡。サンパウロ州はブラジルの経済的中心地で人口も4500万人ともっとも多いため、ブラジルで確認されている感染者の半分以上の2339感染確認、136死亡を占める。サンパウロ市内では院内感染もすでに発生しており、このウィルスの特徴である無症状感染者がどこまですでに拡大しているか・・・。

 ブラジルの人口は約2億人だが、イギリスのインペリアル・カレッジの研究者たちの計算では、手を施さなければブラジルでの死亡者は100万人強にまで上がってもおかしくないということだ。自宅待機、外出禁止、ソーシャルディスタンスをすることで少しでも感染拡大と拡大のスピードを遅くして、医療崩壊を減らして死亡者の数を減らすことが最大課題となっている。感染爆発する前に各州が非常事態宣言を出して、自宅待機を義務付けて爆発のスピードを遅らせている。

 また、サッカー選手たちの慈善事業も各自のイニシアティブによって行われている。災害が起きた時、一番しわ寄せを受けるのは低所得者層である。

 リバウドは貧困層への最低食料セットの寄付をし、他の選手への呼びかけをした。コウチーニョなど、これに続く選手たちも出てきている。

 ブラジルでもすでにマスク不足で、特に医療関係者にとって死活問題に直面している。レアル・マドリッドのカジミーロは出身地のサン・ジョゼ・ドス・カンポス市に6000マスクの寄付と食料セットの寄付をした。元ブラジル代表で現在中国の上海SIPGのフッキは出身地のカンピーナ・グランデ市の病院にマスクの寄付をした。ちなみにフッキは、中国が国境閉鎖する前に中国に戻った。

 そして、ネイマールはサッカー界を超えてブラジルのセレブ達とともにサンパウロのファヴェーラ(低所得層の住む地区)の救済に動き出した。ファヴェーラは住宅密集、下水の不完備など、衛生的に問題を抱えている。また、非正規雇用者も多く、経済的にも日銭が入らない打撃は大きい(政府が非正規雇用者に対してひと月約2万円の3ヶ月間の現金補償を約束。サンパウロ市は加えて2万円)。

 「助け合いの精神はウィルスよりももっと人々に行き渡らないといけない。」と衛生キット(石鹸、歯ブラシ、歯磨き粉など)と食料セットの配布をする。

 また、ネイマールはこれ以外にユニセフにも本人の公表はされていないが、約1億円といわれる寄付をしていたという。

 新型コロナとの戦いはまだまだ長くなりそうだ。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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