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【コラム】海外通信員

才能の宝庫ブラジルにまたしても注目の新人が登場  15歳のエンデリッキ(パルメイラス)

[ 2022年2月6日 14:00 ]

 1月25日は何の日?

 サンパウロ市に住んでいる人ならすぐにわかる祝日だ。市制記念日である。その歴史は1554年まで遡る。ポルトガル人がブラジルを”発見”して54年経った時のことだった。日本にポルトガル人が到来したのが1543年なので、その11年後のこととなる。

 さて、そのサンパウロの市政記念日はサッカー王国にとって重要な日でもある。日本で年末年始の若手サッカーの風物詩が高校選手権ならば、ブラジルでは年始のサッカー風物詩が”コッピーニャ”だ。正式名は”コッパ・サンパウロ・デ・フチボウ・ジュニオーレス”と長いが、U20サッカーサンパウロカップという意味で若手選手の登竜門的な大会である。ブラジルのサッカーシーズンはコッピーニャとともに始まり、その後の州リーグ、全国リーグに繋がっていく。

 コッピーニャは1969年から始まり、今年は51回目を迎えた。ちなみに、過去には名古屋グランパス、読売ヴェルディ、柏レイソル、U20日本代表が出場したこともある。今年は全国の128チームがグループリーグから参加し、決勝トーナーナメントに入ってからはノックアウト式で優勝まで進んだ。

 ブラジルの育成組織は伝統的にU15、U17、U20で19歳までは育成部に所属できるが、20歳からはいられなくなる。そのため、コッピーニャは、育成部年代での集大成であり、ビッグクラブの所属でなくても、中小クラブでも対戦相手次第、活躍次第でメディアからもスカウトからも注目を集めて成功への足掛かりになる夢の舞台だ(2021年大会から21歳の3人のOA枠が設けられた)。

 下は15歳から登録でき、ネイマールも初めてのコッピーニャは2008年15歳の時だった。未来のスター選手をデビューさせるための超飛び級をするのはそうそうあるケースではなく、通常は未来への希望と同時に、生き残りをかけた激しい戦いでもある。その舞台に立つ前に、まずはクラブ内での登録メンバーに選ばれなければならないからだ。

 このクラブ内の熾烈争いの現場を体験した日本の大学生がいる。日本体育大2年生の根上順太くんだ。高校生活3年間を単身ブラジルで過ごし、CAジュヴェントスの下部組織=バーゼでプレーした経験を持ち、コッピーニャのことをこう語る。

 「コッピーニャはテレビ中継もされて、活躍すれば自分のチームだけでなくもっといいチームのプロに上がれるかもしれない大事な大会です。コッピーニャ前の登録30人が決まる前は練習でパチパチでした。実際にコッピーニャがきっかけでチームメイトが同市内のビッグクラブ、コリンチャンスに移籍したり、シャペコエンセの選手として出場した友達が、コッピーニャで活躍してトップに上がったりしてました!」

 中小のクラブがビッグクラブと対戦する大チャンスであり、クラブ内でトップに引き上げられるチャンスでもあるのだ。ジャイアントキリングが起きる可能性もあるし、反対に、これを機会にサッカー選手のキャリアを諦めなければいけない厳しい現実もある。

 さて、今年のファイナルは、4度目優勝を目指したサントス対初優勝を狙うパルメイラスの顔合わせだった。ペレ、ネイマールを生み出したサントスは”メニーノ・ダ・ヴィラと”と呼ばれる育成組織が伝統的に有名なクラブだ。一方パルメイラスは豊富な資金力で強いチーム作りをするトップチームがリベルタドーレス杯2連覇している。育成部の改革を2013年から始め、さらには2015年から現在に至るまでジョアン・パウロ育成部部長が総合的に見るようになって、徐々に種から葉が出て実がなり始めた。

 結果は4-0、パルメイラスの圧勝だった

 そして、23歳で交通事故で亡くなったFWデーネールへのオマージュであるプレミオ・デーネール(最も美しいゴール賞)にはたパルメイラスの15歳、FWエンデリッキが選ばれた*(得点ランキングでも6ゴールで2位)。

 これまでに176試合で170ゴールという驚異的な数字を既に出している15歳は、現在ブラジルきっての逸材と言われている。2016年、10歳の時、サンパウロFC、サントス、コリンチャンス、パルメイラスが興味を示したが、家族ごとサンパウロに引っ越すことを提案してくれたのはパルメイラスだけだった。父親にトレーニングセンター内の仕事を与え、家族を丸ごと引き受け父親が常にエンデリッキのそばにいられる状態を作って少年を育てることにしたのだ。それだけの価値がエンデリッキにはあったことは証明されている。

 エンデリッキの才能は既に世界的に注目され、レアル・マドリード、バルサが興味津々とスペインの「マルカ紙」が伝えているほどだ。プロ契約が結べるのは16歳からなので、今年の7月に16歳になるエンデリッキは、この先パルメイラスのトップでもプレーができるようになる。が、トップのアベウ・フェレイラ監督にとっては、すぐに起用するかどうかは未定。

 コッピーニャに出場した多くの選手が、16歳以上で労働契約を結んでいる。高校生でありながら同時にプロなのだ。日本の高校選手権がアマレベルに過ぎないということではないが、高校という教育機関の中に組み込まれている子達とブラジルのプロクラブの育成部にいる子達は、客観的なアナライズから言えば、プロ意識、取り組み方、競争、指導法、労働契約において、大きな違いがあるだろう。

 エンデリッキは「育成世代でいくら活躍してもどうしようもない。大事なことはプロになってトップのレベルでプレーすることだ。プロとアマは違う。」と冷静に状況を見ている。

 いずれにしても、近い将来、ブラジルサッカーを背負って立つことに違いないだろう。楽しみだ。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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