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【コラム】海外通信員

ほとんどサイコドラマと化したパリ(上) エゴイズムの蔓延

[ 2020年2月27日 18:00 ]

 「3年前からパリはまるでNETFLIX。プシコーズに襲われている」――(結城麻里=パリ通信員)

 テレビ討論でこんな比喩を使ったのは、元ポーランド代表選手でフランス人でもあるリュドヴィック・オブラニャックだ。

 「NETFLIX」は大衆受けするサスペンスやホラーなどをシリーズで流すエンターテイメント産業。「プシコーズ」とは、原因不明ウィルスや無差別テロに襲われた地域や国がよく陥る、理性を失った集団的精神不安現象である。また「3年前」は、パリSG(PSG)がチャンピオンズリーグ(CL)でFCバルセロナに世紀の大逆転を喫した「ルモンタダ」(スペイン語レモンターダのフランス読み)を指す。

 以来PSGの周囲には毎年2月が近づくと恐怖や不安が立ち昇り始め、何かしかの事件が起きて、結局はトラウマを乗り越えられずにきた。実際、翌2018年もレアル・マドリーに敗れて敗退。昨年も、マンチェスター・ユナイテドに敵地で勝利しながら、ホームで大瓦解した。まさにシリーズもののサスペンスさながら、次々と何かが起こるのである。

 そして今年、パリはほとんどサイコドラマと化してしまった。しかも2月18日、ついに迎えたCLラウンドオブ16・ドルトムント戦ファーストレグ(敵地)を冴えない内容で落として(2-1)からは、「神経が切れるのでは?」と思わせるほど心理的に追い込まれている。

 まず敗北直後にネイマールが、いつもは無視するミックスゾーンに自ら姿を現し、「僕のパフォーマンスが悪かったのは、残念ながら僕のせいではなく、メディカルスタッフのせい」とクラブとスタッフへの不満をぶちまけた。

 内容自体は本当だったらしい。2月1日のモンプリエ戦で肋骨に軽く怪我したネイマールは、実はCLの2試合前から戦える状態になっていた。だが、「2018年も2019年も怪我でCLノックアウト・ラウンドに貢献しなかったネイマールが、またしても欠場!」と騒がれるのを恐怖したメディカルスタッフは、大事をとって国内戦全てを休ませ、結果としてCL大舞台がぶっつけ本番になってしまったのだ。

 ただ、成熟した真のビッグプレーヤーなら、ここで言い訳や不満は言わないもの。「今日は100パーセントではなかった。でもこれから好調にしてカンドレグで覆す」と決意を表明し、チームメイトに道を示すはずなのだ。だがネイマールは「他人のせいにして自分を守った」(テレビジャーナリストのカリーヌ・ガリ女史)。

 時を同じくしてレオナルドSDもシュールな行動をとった。監督が記者会見で矢面に立たされているのに、見捨てるようにさっさとスタジアムを出て、テレビが撮影しているのを承知で一人バスの中にこもったのだ。携帯を耳に険しい表情で誰かと話し、暗い怒りを見せる演出だった。

 さらにソーシャルネットも飛び出した。キンペンベの兄がトゥヘル監督に毒づき、「売女の息子!」と叫んでしまったのだ。「監督同様、キンペンベ本人も犠牲者だ」とみなが分析したのを受け、兄は慌てて謝罪したが、なにやら異様な雰囲気になってきた。

 そこへ決定的な衝撃映像が流れた。イカルディ、カバーニ、ディ・マリアの合同誕生パーティーが催され、敗北48時間後だというのに、ネイマールら数人が上半身裸で馬鹿騒ぎ。女性のセクシーダンスも披露され、フランス中の目がテンになってしまったのだ。しかも映像をソーシャルネットに流したのが、イカルディの妻兼代理人ワンダ・ナラだったことも判明。クラブは沈黙したが内部では密かな騒ぎになり、トゥヘル監督はと言えば、翌日の記者会見で頭を抱え、声を引き攣らせる羽目になった。「この状態でどう戦うのか」と誰もが首を傾げた日だった。(続く)

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