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【コラム】海外通信員

本田圭佑がリオの名門ボタフォゴにやってくる

[ 2020年2月3日 16:30 ]

 元日本代表のKeisuke Hondaがボタフォゴに入団!とニュースが流れた。移籍金はゼロ。サラリーのみ。契約期間は2020年12月までと。今期のボタフォゴの12人目の補強となる。

 ボタフォゴは言わずと知れたブラジルの名門クラブだ。1950、60年代がクラブの黄金時代で、ブラジルサッカーの英雄であるガリンシャが背番号7番をつけ歴史を作った。代々7番がクラブきってのクラッキ(スーパープレーヤー)が付ける。ユニフォームは縦縞の白黒。

 ブラジルのプロサッカーチームは、社交クラブやヨットクラブのサッカー部として発展していった歴史的背景がある。ボタフォゴの場合、クラブ名がボタフォゴ・デ・フチボウ・イ・レガッタというが、100年以上前に、海の街リオならではのボート競技をするグループが作ったクラブに、数年後サッカーをするグループが合流してできたクラブである。リオの絶景ポイントと言われる奇岩ポン・デ・アスーカル(シュガーブレッド)を眺めるグワナバラ湾にクラブハウスを構える。近年は90年代にトゥーリオ・マラヴィーリャというFWの活躍でブラジル選手権優勝を成し遂げて以来、大きなタイトルからは遠ざかっている。

 リオにはフラメンゴ、フルミネンセ、ヴァスコ・ダ・ガマ、ボタフォゴと4ビッグクラブがあり、歴史的にブラジルのサッカーを牽引してきたが、近年は経済の中心地がサンパウロに移ったこともあり、リオサッカーの勢いが落ちてきていた。そんな中、フラメンゴが強いサッカーで全国リーグ、リベルタドーレス杯を制し、あと一歩で2度目の世界タイトルに手が届くところまで行って、リオサッカーは大きな活気を取り戻している。

 ブラジルは欧州と異なり1月からシーズンが始まる。ブラジルサッカーシーズンの仕組みは日本や欧州と全く異なり、1月から4月が州リーグ、5月から12月が全国リーグが行われる。州リーグと全国リーグは主催者が州サッカー協会とブラジルサッカー連盟と別々で連携性は無い。年間通して、南米チャンピオンズリーグのリベルタドーレス杯、スラメリカーナ杯、コッパ・ド・ブラジルというカップ戦が行われる。ブラジルという国が欧州諸国が何カ国も合わさった規模ということで、州リーグでさえ規模は一国のリーグ戦並みである。

 フラメンゴが全国規模でサポーターを持つ超人気クラブであることと比較するとボタフォゴは地元密着型でサポーターは主にカリオカ(リオ市の人)たち。ビッグ4以外にもリオ州には古くからの伝統的クラブも多く互いのライバル心はとても強い。

 近年のボタフォゴは目立った成績もなく、2002年、2015年と全国リーグは2部落ちを喫している(すぐに一部に戻ったが)。クラブ経営も暗雲が立ち込め、プロサッカー部門だけを切り離し株式会社化の話が進められているところだ。資金不足のため昨年は下部組織の選手を15人と最も多く使ったクラブだった。ある意味、若手選手がチャンスをもらえる活気のあるチームでもある

 サッカー部門のディレクターであるヴァウジール・エスピノーザは、かつてレアル・マドリッドで活躍をしたFWの選手だ。監督は元選手で欧州クラブでの経験もあるアウベルト・ヴァレンチン。若干44歳ながら、パルメイラスなどビッグクラブの監督を務めている。ブラジルで星の数ほどあるサッカークラブの中のトップ20の一つであり、優勝経験のある名門であることに違いない。ここに入団するというのは、クラブフロントにとっても本田選手にとっても生半可な気持ちではないことは確かだ。

 33歳という年齢から日本ではキャリア終盤とか言われているのかもしれないが、一生に一度、ブラジル、それもリオの名門クラブのプロ選手になれるなんて、サッカー選手としてこんな幸せなことはなかなか無い。リオの空気の中、サッカークレイジーな人たちと、思い切りサッカーという海に潜る機会なんてできることじゃない。

 サッカー選手として、指導者として、ビジネスマンとして、人間としてのきっとおもしろい経験になるはず。ボタフォゴでスタメンとして常に試合に出られるかは誰にもわからない。けれど、契約前にボタフォゴファンが“#本田さんボタフォゴに来て”とツイッターで呼びかけ大騒ぎになったことからも、ブラジルのお祭り好きファンにとっては楽しみでしかない。

 サッカーで世界を渡り歩き、実際にプレーをしてその世界を見ている人にやる前から批判をできる人なんていないと思う。ベテランの経験を生かしJリーグに戻って経験を伝える役割を担う人もいるだろう。しかし、彼は自ら、世界でもトップクラスで辛口のサポーターの中に身を投げ出そうとしているのだ。ブラジルのサポーターはお祭り好きだが、同時にクラブに貢献しない選手に容赦は無い。負けてもよくがんばった!なんて甘い世界はここには無い。それも含めて、彼は見て感じたいのではないか。今までとまた違う新たな景色がきっと彼の前に現れるのだろう。

 ブラジルの選手やサポーターたちとどんな化学反応が起きるのか、見てみたい。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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