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【コラム】海外通信員

新星エキティケ また若いフランス製ビッグポテンシャル

[ 2022年7月21日 12:30 ]

<パリSG練習>ウォーミングアップするネイマール(左から2人目)らパリSGの選手。右端はメッシ(撮影・佐久間 琴子)
Photo By スポニチ

 ビッグな若手を次々輩出するフランスに、また一人新星が出現した。ニューカッスルのオファーを蹴り、日本ツアー出発直前のパリSG(PSG)と電撃契約したユーゴ・エキティケ(20歳)だ。フランスではいま、この新星の品定めが連日話題になっている。

 コアなウォッチャーの間では、すでに知られていたこの青年。だが多くのフットボールファンにとっては、フランス国内でもあまり馴染みのない名前だった。「Ekitike。エティキテ?ティキタカ?いやエキティケか。発音しにくいが、とにかく凄いらしい」。フランス人の間でもそんな会話が交わされている。

 なにしろ青年は、所属していたスタッド・ド・ランス(シャンパーニュ地方のランス)と、ベルギーで合宿中だった。ところが突如パリに呼ばれ、PSG御用達の有名病院でメディカルチェックを受けるや、直ちに5年契約にサイン。文字どおり彗星のように現れたのである。

 ほんの1年前までは、デンマークのヴェイレにレンタルされていたエキティケ。生まれ故郷の育成クラブ、スタッド・ド・ランスでなかなか出場機会がもらえず、若くして国境を越えた若者は、2021年夏にランスに戻るやブレイク。シーズン終盤こそ怪我に悩まされたものの、リーグアン24試合に出場して10ゴール3アシストを記録したのだった。

 一見すると平凡な数字に映るかもしれない。だがよく分析すると、実は半端ではない。

 まず90分毎の平均ゴール数を割り出すと、キリアン・エムバペ0.70ゴール、ムサ・デンベレ(リヨン)0.65ゴールに次いで、エキティケが0.64ゴールとリーグ3位なのだ。

 それだけではない。シュート数とゴール数の関係を比べると、何とエキティケは平均3.2本のシュートを放つだけで1ゴールを決めた勘定だ。これにたいしエムバペは5.99本のシュートで1ゴール、ムサ・デンベレは5.2本のシュートで1ゴール。こなした試合数も求められる責任も違うため単純比較はできないが、リーグ1位の効率を実現したことになる。ゴール前でいかに冷静かが見えてくる数字だ。

 しかも強みも多彩だ。191センチ74キロというひょろ長いフィジカルを甘く見たディフェンダーたちは、しばしば赤恥をかかされる。なにしろ長身痩躯にもかかわらず本物のドリブラーで、常に動き回り、チームメイトを助けるデュエルもこなし、パスでソリューションを提示したり、ライン間に身を滑り込ませてプレーを加速したりもするからだ。

 もちろん長身を活かしてゴールを背に支点になることもできれば、クロスをカットしてゴールすることも、プレースキックに素早く反応してゴールすることも、ワンタッチでスピーディーな攻撃をフィニッシュすることも、エムバペばりに20~25メートルを疾駆して決めることもできる。関係者によると、「課題はヘッドのプレーぐらい」だそうだ。

 ルイス・カンポスがPSGスポーツアドバイザーに就任して獲得した若手であることも、人々に期待感を抱かせている。

 カンポスはモナコでリクルーティング手腕を発揮し、いつの間にか凄まじいチームを構築した人物。結果モナコは、リーグ優勝を果たしたばかりか、チャンピオンズリーグ(CL)準決勝にまで駒を進め(いずれも2017年)、世界を驚かせた。このときエムバペが開花した。次いでリールでは、まさにクリストフ・ガルティエ現PSG監督とタグを組んで、やはり短期間に強力なチームを建設、スター軍団パリを蹴落としてリールをリーグアン優勝に導いた(2021年)。

 今夏のPSGはファイナンシャルフェアプレーを警戒して、購入予算を8000万ユーロ程度に制限しているため、フランス国内の若手を賢く獲得または昇格させる路線を敷いているが、エキティケの1年間の結果を見れば、単に財政上の理由からではないかもしれない。

 それどころか加齢したメッシ、くすみがちのネイマール、いずれレアル・マドリーに行くであろうエムバペを考えれば、パリもやっと、テレビゲームのようなスターコレクション路線から、未来を見据えた賢いチーム建設路線に移行した、との見方もできるかもしれない。

 ただ、ユーゴ・エキティケが本当に大化けできるかどうかは、まだまだ不明だ。スター軍団の中に20歳のアタッカーが場所をつくるのは、やはり容易ではないからだ。出場機会をゲットするだけでも一苦労だろう。仮に出場できても、すかさず活躍して定着するには心身両面の図抜けた才能が求められる。しかもスタッド・ド・ランスは平均ポゼッション率42パーセントだったのにたいし、PSGは63パーセントでリーグ1位。要するにプレースタイルも正反対だ。それでも同じようにゴールできるかどうか、が問われてくる。

 ガルティエ新監督は7月16日付レキップ紙の独占インタビューに登場し、フレッシュなフィジカルを保ち怪我を避けるために、エムバペの「出場時間にバランスを見つけねばならないだろう」としたうえで、こう語っている。

 「それに私は、キリアンに別のアタッカーを連係させたい。キリアンはタテ突破が好きで、テクニックに非常に長け、ライン間でプレーすることもできる。キリアンに別のアタッカーを連係させたいと思ったら、それは違うタイプでなければならない。エリア内で標識になる支点だね」

 つまりエムバペのバックアッパーも、エムバペと連係できるアタッカーも必要になる、という意味だ。エキティケはこれにあてはまるのか。総合型で、長身を活かして支点にもなれ、それでいてドリブラーでもある以上、理論的には可能になってくる。本人が努力をすれば、またメガクラブの重圧に負けなければ、の2条件つきで…。

 果たして新星は、パリで本当に活躍できるだろうか。それともいつもどおり、余剰人員に終わるだろうか。カンポス&ガルティエの手腕と並んで、エキティケのシーズンに注目だ。(結城麻里=パリ通信員)

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