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【コラム】海外通信員

フランス「閉幕なき終焉」にショックと安堵 今後の見通しも立たず 来シーズンには一縷(いちる)の希望

[ 2020年4月30日 12:00 ]

ロックダウン(都市封鎖)が続くフランス
Photo By AP

 フランスリーグ2019-20年シーズンが「閉幕なき終焉」を迎える路線が濃厚となり、ショックと安堵の両方が広がっている。

 エドゥアール・フィリップ首相が28日午後の国会演説で、「5000を超える人々を集合する全てのイベントは9月前には開催できない」「プロスポーツの2019-2020年シーズン、とくにフットボールのそれは、再開できないだろう」と明言したためで、最終決定権はプロフットボール連盟(LFP)にあるとはいえ、国民の命にかかわる政府決定に従わないことはほぼ不可能になった。

 大ショックに見舞われたのはそのLFPだ。LFPはここまで、6月17日に今シーズンを再開して8月2日に閉幕する路線を真剣に検討、それを前提に5月11日からトレーニングを再開する方向で準備してきた。

 この路線のもと各クラブもトレーニング再開日をプランニング。パリSGやモンプリエは5月11日から15日の間、マルセイユは13日、ボルドーは15日、モナコは11日で検討し、降格の危機にあるアミアンに至っては、早くも選手たちのPCRテスト(コロナウィルスに感染しているかどうかを検査するテスト)も敢行し、トレーニング再開に備えていた。

 このためLFPは28日夜、緊急執行部会議を開き、侃々諤々の大議論に。だが結論は出せず、「(LFPは)政府と保健当局の指示に厳格に従うだろう」とのみ発表して、4月30日にも再度執行部会議を招集したうえでLFP総会を開く、と決定した。

 一方で多くの関係者が胸を撫でおろしている。とくに選手たちの多くは、今シーズンの無理な再開に賛成していなかった。プレーしたいのは山々でも、リスクと不安が多きすぎるからだ。

 たとえばニームのFWロマン・フィリポトは南仏の「ラ・プロヴァンス」紙に、「(再開なんて)信じ難いよ。一日の死亡者数を見るにつけ、5月中旬に練習を再開して6月にリーグも再開するなんて、どうしたら可能になるんだか。とてつもないプランだ」と疑問を提示していた。

 またアミアンのMFトマ・モンコンデュイは、「非常識で無分別。僕らの健康も保証されない。他のビッグコンペティションが中止されているのに、僕らはプレーしなくちゃいけないというのか。そもそも必死で闘っている医療関係者にたいし、リスペクトを欠くと思う」(レキップ紙上)、と批判。ディジョンのFWフレデリック・サマリターノも、「無分別だ。Covid-19の犠牲者と、患者に接している全医療関係者に思いを馳せれば、優先順位は明白。フットボールじゃなくて、人命だろ」(同紙)と容赦なかった。

 そもそもフランスプロフットボーラーの94パーセントを結集する選手組合UNFPも、「今シーズンの単純な中止」を要求していた経緯がある。「プレーオフを組織して今シーズンを終了する道もある」(リヨン会長)と異論を唱える者もあるが、これは少数派。選手たちだけでなく監督たちやクラブ関係者も、今回の首相決断にひとまず安堵しているところだ。実際、フランスフットボール連盟(FFF)のノエル・ルグラエット会長も、「よい決定だ。最優先は健康なのだ」ときっぱり語っている。

 ただ今後の見通しは不明で、多くの問題が山積している。最初の課題は、今シーズンのランキング。リーグアンは3月13日に中断したが、この時点ですでに第28節を迎えていた。このため圧倒的多数のクラブは空白シーズンにしないことを主張中。ただ全クラブが完全に試合をこなしたのは第27節で、どちらの節を最終順位にするかが焦点になる。

 UEFAとの関係も難題だ。UEFAはチャンピオンズリーグ(CL)のファイナルを8月29日に、ヨーロッパリーグ(EL)のファイナルを同27日に設定している。フランスの場合、パリSGとリヨンがCLに生存中。このためパリSGは直ちに、「フランス政府の決定を尊重する」としながらも、「フランスでプレーすることが不可能なら、選手とスタッフに最良の保健コンディションを保証しながら外国で試合をしたい」と、CLを戦い抜く姿勢を示した。

 もっとも、最大の課題は来シーズンだろう。LFPはすでに、2020-21年シーズンを8月中に開幕すると決定していた。来シーズンからのフランスリーグ放映権を獲得した「メディアプロ」が、8月中の開幕を条件に、フランス史上初記録となる莫大な放映権料を支払うことになっているためだ。もし8月に開幕できなければ、無銭地獄に落ちることになる。

 首相は「無観客試合」には言及しなかった。ということは、無観客で8月下旬に来シーズンを開幕することは可能、ともとれる。ルグラエットFFF会長も今後、この路線を政府に働きかけていくものとみられる。

 だが全ては国民の心がけ次第でもある。もし感染者数や死者数が減らなければ、元の木阿弥。4月28日夜まででフランスは、計2万3660人もの尊い命をコロナウィルスに奪われた。重症者数はやっと減少傾向に転じたが、27日から28日までの24時間のコロナ死亡者は、依然として367人に上っている。いまこの瞬間も、恐怖と苦痛の地獄を味わっている患者とその家族が、大勢いるということだ。

 政府も、少しでも匙加減を間違えば第二波に襲われ、さらに巨大な責任を背負うことになる。何よりも人命――。いまはこれを合言葉に、フットボールも着実な準備でリバウンドを狙うしかない。(結城麻里=パリ通信員)

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