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【コラム】海外通信員

エムバペ爆弾炸裂でネット炎上 試合後も大揺れ続く 裏切られ感?それとも他にも?

[ 2022年10月13日 16:00 ]

パリSG退団希望とされるフランス代表FWエンバペ
Photo By AP

 チャンピオンズリーグ(CL)パリSG(PSG)・ベンフィカ戦(1-1)直前の11日午後、スペイン紙「Marca」が「エムバペは1月にもパリを去る方向で検討中」と報道したことで、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が大炎上し、翌12日になってもフランス中に衝撃が走っている。

 このため、ベンフィカ戦は大騒動のなかでスタート。当のエムバペは感情を出さずに奮闘し、PKも決め、23歳にしてPSGのCL史上最多得点記録(31ゴール)を樹立したが、歴史を塗り替えたこの事実さえ霞むほどに激震が続いている。

 思えば、エムバペが明るい笑顔でアルケライヒ会長と一緒にパリ残留を発表したのは、5月21日。ほんの4カ月半前のことだ。

 ところがシーズンが開幕するや否や、不穏な兆候が露呈した。エムバペのボディランゲージに苛立ちが読み取れ、8月13日のモンプリエ戦(5-2)では新「ペナルティゲート」も勃発。エムバペがナンバーワンPKキッカーに指名されていたにもかかわらず、ネイマールがボールを奪い、PKを決めたのだった。エムバペは事を荒立てなかったが、不満は誰にでも想像できた。

 次いで、奇妙なメッセージが飛び出したのは、9月22日フランス代表のオーストリア戦(2-0)だった。昨年のEURO直前にはオリヴィエ・ジルーに怒ったエムバペだが、この日は一転、ジルーと仲良く連係してゴール。試合後にこう発言したのだ。

 「ここ(代表)ではぐんと自由を手にしているんだ。コーチ(デシャン)は守備も担う“オリーヴ”(ジルー)のような9番がいることを承知していて、僕はあちこち走り回ってスペースに行って、ボールを要求できる。パリではそれがないんだ。僕にピヴォをするよう求めてくる。違うんだよね」

 そして極めつけは、10月8日のSDランス戦(0-0)後。エムバペは「♯ここはパリ」「#ピヴォギャング」という意味深長なハシュタグを流したのだ。「ピヴォ」とは「軸、心棒」を意味する単語で、ゴールを背にしてボールを受け、素早くターンでシュートしたり周囲にパスを出したりと、支点の役割を果たす9番のことである。まさにジルーのような選手だ。つまり「僕がピヴォばかりやっている」という皮肉なサブリミナル・メッセージになる。

 エムバペはこれらの発言で、クラブに「契約更新時の約束が守られていないぞ」という警告を発していたわけである。

 エムバペが子ども時代からの夢だったレアル・マドリード行きを蹴ってまで、パリ残留を決めた背景には、エムバペを「プロジェクトの要石」(会長)にしてCL優勝を目指す。そのために、ロベルト・レバンドフスキのような大型9番を獲得する、他にもベルナルド・シウバのような大型補強も敢行する、エムバペとポジションがダブるネイマールは放出する、などの約束があったらしい。だがそれらは何一つ守られなかった。

 このため、エムバペは裏切られ感を募らせてきたという。そして取り巻きからこれを取材したらしい「RMC」が10日夜、エムバペは「近未来にクラブを去りたいと思っている」と報道。これに飛びついたのが“レアル・マドリード新聞”と揶揄される「Marca」紙で、「1月」という衝撃的数字が挿入されたため大騒動に発展してしまった。

 これを受け11日の試合直前には、ルイス・カンポスSDが中継テレビ局「CANAL+」のマイクに向かい、「キリアンは私にそんなことは一度も語っていない。その報道を否定する」と断言。

 試合後に質問攻めにあったクリストフ・ガルティエ監督も、「噂がニュースになり、ニュースがほとんど声明にまでされてしまった。トレーニングでもエムバペの態度には何の違いも見えなかった。重要な試合の前に、こんなことが起こるなんて驚きだ。キリアンは非常にリズムに満ちた、インテンシティーの高い試合をした。彼は噂に対し回答を出したのだ」と強調した。

 またチームメイトたちがエムバペの活躍を支援したように見え、ピヴォではなく8割がた左サイドでプレーしたことから、「事前に何か指示を出したのか」との質問も飛んだが、監督は「選手ともスタッフとも、このテーマには全く言及しなかった。噂なのだ。ただ試合の4、5時間前に出るからには、私にも訝(いぶか)る権利がある。この噂で得するのは誰だ?」と切り返した。

 この問題を巡っては試合後に、「知的な子だと聞いていたが、チームを混乱させたのだから知的じゃない」(元ラグビー代表エリック・ブラン氏)との批判も出たが、大方の見方は「もっと奥がある。エムバペは自分で火をつけて行動に出て、物事を変えるタイプ。クラブに冬のメルカートでちゃんとしろとプレッシャーをかけているのでは?」というものだった。

 実際エムバペは、子どもたちの食生活によくないスポンサーの広告にはならないとして、フランス代表の公式写真撮影をボイコット。結果としてこの行動が連盟を動かし、エムバペは改革の約束をゲット、勝利した。勝利後は納得できない公式写真撮影にも一度だけ応じている。したがってエムバペは戦術的に動いている可能性もある。

 だが、エムバペが本当にカタール版PSGに愛想をつかした可能性も、決して否定できない。「L’EQUIPE」紙12日付によると、エムバペに近い人々は「問題はフットボールの枠を超えている。単なる春の約束とか、ポジションの問題ではない」とほのめかしているらしい。

 カタール開催ワールドカップをめぐっては、劣悪な労働条件のもと数千人の労働者が死亡したと報道されているほか、重大な地球温暖化や戦争によるエネルギー危機で庶民が苦しんでいるにもかかわらず巨大スタジアムを冷房するなど、スキャンダラスな実態が問題視されており、フランス国内でも「カタールゲート」と呼ばれる疑惑が浮上しつつある。不当なことには立ち向かうタイプのエムバペが、これらに無関心でいるかどうか・・・。

 PSGがこの冬のメルカートでエムバペを売却するのは、かなり難しい。レアル・マドリードの方も、冬はまず無理と見ているだろう。ただ、来夏なら話は別だ。「ピヴォギャング」のプレーと発言は、これからまだまだ激震をもたらすかもしれない。(結城麻里=パリ通信員)

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