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【コラム】海外通信員

新型コロナの影響?経済不況がセレソン(ブラジル代表)にも…

[ 2020年11月20日 13:00 ]

 ご存知の通り、ブラジルはサッカー王国。ただ単に、サッカー人口が多いだけではない。目を開けば、耳をすませば、フチボウ=サッカーがそこにある。テレビもラジオも新聞も、ネットもどこにでも、ブラジルの空気の中にフチボウが漂っているのだ。そして、人々はテレビで流れる試合を見ては、ああでもない、こうでもないと議論する。中でもセレソン=代表の試合は特別だ。セレソン(ブラジル代表)の試合は皆でワイワイと見る最大の娯楽の一つだった。

 セレソンの試合中継は、空気のように当たり前のものだった。私がブラジルに住み始めて28年だが、セレソンの試合は常に無料の地上波で放送されていた。テレビで流れるのが当たり前で、誰もが貧富関係なく平等に見られるものだった。

 そんなセレソンの試合が、ついに地上波で見られない日が来た(有料ストリーミング、ペイパービューはあり)。11月17日のカタールW杯南米予選のウルグアイxブラジル戦は、これまで地上波で必ず中継してくれていたブラジルで最も人気も財政力も高いTVグローボが放映権の取得を断念したためだ。

 TVグローボはこれまでセレソンの試合は目玉番組としてホーム、アウェイ関係なく総力を挙げて中継をしてきた。これまではセレソンの南米予選全試合をまとめて買うことができたのが、今回は各国のサッカー協会ごとに放映権を仕切ることになり、アウェイ戦はその国の協会が委託している放映権管理のエージェントとの交渉を1試合ごとにしなければいけなくなったのだ。

 そのため、グローボは今回のW杯南米予選ではブラジル国内での試合のみ放映権を取得して、アウェイ戦に関しては白紙にしていた。唯一アルゼンチン戦は国民の関心が高いということからアウェイでも放映権を取得した。

 放映権の値上がりはかねてから取りざたされていたとはいえ、これまで何の気なしに無料で見ることができたセレソンの試合が見れないのは衝撃が大きかった。

 こんなことになってしまったは、やはり新型コロナの影響もある。元々ブラジル経済は2000年代のバブル以後一進一退であったが、今年は新型コロナの拡大でさらに不況になった。そして、ドルに対してのレアル暴落に拍車がかかった。
 10年前と比較してみれば、実に3分の1の価値になってしまっているのだからかなり厳しい。当然、ドル建ての放映権も高くなる一方ということだ。グローボとしては、局の顔とも言えるセレソンの試合中継を苦渋の決断ながらアウェイ戦に限って切り捨てることにした。

 グローボが手を引いたことで10月13日に行われたリマでのペルー対ブラジル戦も地上波放送は予定されていなかった。これではセレソンの試合を楽しみにしている国民を裏切るようなものということで、CBF(ブラジルサッカー連盟)が約1億円の放映権を買って、国営放送のTVブラジルに転売することで、ギリギリになって地上波無料中継を実現させたのだ。

 11月17日のウルグアイ戦の放映権もグローボが断念したため、競合テレビ局が興味を示したが、結局約1億円という値段がスポンサー収入だけでとてもまかないきれるものではなく、諦めた。

 そして、前回のペルー戦で取られた手法は、期待していたようなリターンが得られず赤字になったため、ウルグアイ戦ではこのアイデアは却下となり、ついに地上波中継が無かったというわけだ。

 これまで、セレソンの試合を無料で見ることは、国民にとって水はタダ的は感覚だった。蛇口を開ければ水が出てくるように、テレビをつければセレソンの試合が見れたのだ。しかし、今はお金を払わなければ手に入れられないものになりつつある。

 セレソン人気が下がってきているのも現実だ。ほとんどのセレソンの選手が欧州でプレーし、国民からは物理的にも心理的にも遠い存在になってからかなり経っている。セレソンの試合の視聴率も以前ほど稼げなくなってきた。特に、欧州やアメリカなどで行われる練習マッチやフレンドリーマッチなどは時差の関係で、夜中、早朝、人々が仕事や学校に行っている日中などにやっていては、見ることなどできないし、関心も薄れていた。

 以前なら、国が不況になるとセレソンに夢を託して熱狂していたものだが、サッカー選手のサラリーと平均的国民のサラリーの違いが大きすぎて夢を託しようがなくなった。サッカー王国も変わりつつある。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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