【コラム】海外通信員

強いブラジルサッカーが戻ってきた 南米予選敗退から奇跡の優勝

[ 2019年11月21日 06:00 ]

優勝して喜ぶU17ブラジル代表メンバー
Photo By AP

 感動的な敗者復活劇だった。本来ブラジルはこのU17W杯の舞台にいないはずだったのに、終わってみれば敗者復活を果たしたブラジルが5回目優勝を成し遂げた。

 ブラジルは12大会連続で出場していた強豪国でありながら、この第18回大会ではまさかの南米予選敗退。グループリーグでブラジルはアルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイに続く4位になり決勝リーグ進出にならず。ところが、開催国だったペルーがインフラの問題でFIFAがホスト国の座を取り消し、ブラジルが代替ホスト国として選ばれることになったのだ。そう、ブラジルはホスト国になったことで転がり込んだ権利で大会に出場できたのだ。

 グループリーグ全勝、決勝トーナメントもPK戦なしの完全優勝。中でも準決勝のフランス戦は、実質の決勝とも言われた注目の一戦だった。タレント揃いのフランスに守備の乱れたブラジルは前半13分までに2点先制され、ブラジルはなかなか点が入らない苦しい展開が続いたにも関わらず、若きセレソンたちは決してあきめなかった。ここぞという時に決めるカイオ・ジョルジ(サントス)が62分まず1点取り返し、続けてヴェロン(パルメイラス)が同点ゴールを決めた。そして交代出場したラザロ(フラメンゴ)が終了間際の89分に逆転ゴールをネットに突き刺した。

 そして決勝のメキシコ戦も先制を許してしまったが、決してあきらめなかった。後半84分にやっと同点に追いつき、試合はPK戦にもつれ込むかと思われた終了間際に、再びラザロが決勝打を決めた。そして、試合終了のホイッスル。歓喜にむせぶ選手、監督、スタッフ。観客、そして画面に釘付けになっていた人々。U17といえどもW杯に優勝したということに王国の自信とプライドを取り戻した瞬間だった。かつてU17W杯でこれほど盛り上がったことがあっただろうか。

 南米予選敗退はサッカー王国のプライドをズタズタにした。しかし、この悔しさこそがバネとなり王国の誇りを取り戻すことになったのだ。

 南米予選を率いたギリェルメ・ダラ・デア監督は当然解任を覚悟した。南米予選を敗退するなどサッカー王国にとってあってはならないことが起きたのだ。通常なら、この恥辱的敗退に対して監督は責任を取らされただろう。なぜならブラジルでは3試合負けたら監督は首になるという刹那的サッカー文化が根付いている。しかし、CBFのカボクロ会長(2019年4月から正式な会長。その前は1年間会長代行)はダラ・デア監督の首を切らずに引き続きチームを任せることにした。カボクロ会長はCBFの暗黒時代ともいえるマリン会長(汚職によりアメリカで自宅監禁中)、マルコ・ポーロ会長(汚職疑惑)時代からの脱却を目指し改革を進める若き現役弁護士だ。

 今回の優勝の最大の要因は、監督の首を切らなかったことだ。チーム作りには時間がかかることを上の者が理解し、監督に権限を与えたことで、ダラ・デア監督はチーム作りにしっかりと取り組むことができた。

 2018年末からU17代表を指揮し始めたダラ・デア監督は優勝の弁をこう述べた。

 「この優勝は、今ここにいるメンバーだけでなく私が召集した98人選手の全員の力だと思っている。今日はブラジルサッカーにとって歴史的な日になった。このU17チームは素晴らしい才能の宝庫だ。この先、各クラブのトップチームで活躍をしていくだろう。国民に感謝。我々がきっと逆転すると信じて応援してくれた。国民、選手たち全員、ここにいる選手だけでなく、全ての選手、そして全ての監督たちのおかげでこの優勝を手にした」

 監督は、選手たちに「我々は世界チャンピオン5回というサッカー王国なんだ。その誇りを忘れてはいけない」と言ってきた。選手たちは17歳以下にもかかわらず、カナリア色のユニフォームを着る重みを感じつつ、喜びを爆発させた。

 監督は、近年ブラジルサッカーの評価が下がっていることを真っ向から否定する。

 「ブラジルサッカーは正しい方向に進んでいる。この若い選手たちはブラジルサッカーを背負う立派な選手に成長していくだろう。できればすぐに海外に行かずブラジルにとどまって、ブラジルのクラブで活躍をしてブラジルサッカーの発展に貢献するだろう」

 ブラジルサッカーのポテンシャルと、明るい未来を感じさせる才能溢れる選手たちばかりだが、中でも注目を集めた3人を紹介しよう。今回MVPに選ばれたヴェロン(パルメイラス)。牛飼いの子供として生まれ、アルゼンチンのレジェンドプレーヤー、ヴェロンからインスピレーションを得て名前がつけられたという。17歳とは思えぬ落ち着いたプレーぶりで、すでに6000万ユーロという違約金が設定されている。

 ブラジルの中で最も点を決めたカイオ・ジョルジ(サントス)。チャンスを逃さない嗅覚の鋭さを持つ。サントスではU15でU20最大の大会コッパ・サンパウロ・デ・ジュニオーレスに出場しネイマールと並んだ。すでにトップチームとの練習にも呼ばれている。

 「たくさんのゴールを決めて、タイトルを取って、サントスのトレーニングセンターの塀にサントスの伝説的プレーヤーとして描かれること(ペレ、サンパイオ、カズなどの似顔絵が描かれている)」と夢見る。

 憧れの選手は怪物ロナウド。

 そして、準決勝、決勝で逆転ゴールを決めチームおよび大会の顔となったラザロ(フラメンゴ)。興味深いエピソードは、今年初めにフラメンゴは育成部の寮が火災に見舞われ多くの将来有望の若者が命を失った。このラザロも寮の住人だったが、たまたまこの日は寮に不在だったため、この悲劇から逃れた。昨日まで一緒にボールを蹴っていた仲間が一瞬で消えてしまう辛い経験を経て、彼らの分もサッカーができる喜びと責任を感じたラザロは、絶対に結果を出すと交代出場した。

 すでにプロ契約をしている彼らだが、純粋な姿と真摯なプレー、そしてサッカーを楽しんでいる姿にに国民は虜になった。

 専らの話題は、彼らがいつトップチームでデビューするか、サポーターは遠しくてたまらない。

 やはりブラジルは才能の宝庫ということを証明して見せた。ブラジルサッカーの未来は明るい。ダラ・デア監督の言葉をブラジル国民は信じようじゃないか。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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