【コラム】海外通信員

ネイマールの悲劇(下) 「民」に首を切られた「王」

[ 2019年8月16日 07:00 ]

バルセロナへの復帰が噂されるパリSGのFWネイマール
Photo By AP

 まずフランスは、まさに王の我儘と贅沢を許さなかった歴史を誇る国だ。そんなことも知らなかったわけだ。またフランスは芸術家やアーティストを大切にする国だが、それも高い(または深い)人間性を芸術で体現できれば、の話である。それも理解できなかったのだろう。そもそもフランスは大人の国。「おこちゃま」や「アイドル」は通用しない。そして何より、名もなき民のために身を捧げる人をこよなく愛す。これは当たり前のような気もするけれど…。

 ところがネイマールは全てで逆のことをした。

 ピッチ上ではときどき燃える才能を発揮したものの、早々とPKをめぐってカバーニを虐待した。「PKを蹴るのはオレ様だ」という態度だった。対戦相手を侮辱するプレーや行動もしばしばで、肝心のときになるとケガでピッチ上にもフランスにもおらず、チャンピオンズリーグ(CL)の佳境で役立ったことはなかった。

 ズラタン・イブラヒモビッチとは対照的に、「パリが好き」「クラブのため」といった態度は一度も示さず、インタビューは常にブラジルで受けて、ミックスゾーンもフランス・ジャーナリズムも無視し続けた。リーグアンのレベルが低いと馬鹿にしながら、それでいて自分のビジネスと夜遊びには精を出した。フランス語を学ぶ努力は全くせず、イヴリーヌ県ブジヴァルに豪華な家を持って、暇なときは有名な取り巻き連中と遊んですごした。

 こうして最後はロッカールーム内でも、フランス語圏選手たちとうまくいかなくなってしまった。「なぜネイマールの遅刻は許されて、他の遅刻は罰せられるのか」という感情が、当然浮上したからだ。

 しかも若手に向かって、「あいつらは指示されたこともわからない」と言い放ち、よくある「若い子批判」もした。「上の者」が「下の者」をいじめて当然という国もあるようだが、フランスの理念は「平等」。そんなことも知らなかったのだろうか。むしろ「強きをくじき弱きを助く」態度こそ、フランスでは勇敢とされているのに、である。

 挙句にバルサへのラブコールが飛び出した。「僕の最も美しい思い出は(バルサがPSGを下した)レモンタダだね」――。これで寛大だったファンさえ、堪忍袋の緒がぶち切れてしまった。

 フランス中がいま語っている話題は、ネイマール争奪戦でバルサとレアルのどちらが勝つか。もはやパリに残ってほしいと思う人はいなくなり、「レアルならアザールをトップ下にしたベンゼマとネイマールの2トップだ」「バルサならグリエーズマンがトップで、右がメッシ、左がネイマールだ」と、フランス人は高みの見物を決め込んでいる。

 どちらにしてもネイマールは、また「王」(メッシ、ジダン)の陰に隠れねばならず、どちらにしてもフランス人(グリエーズマン、ベンゼマ、ジダン)と対決(または仲良く)しなければならない。

 フランスには有名な言葉がある。「王が死んだ、王様万歳!」である。ネイマールがいなくなった後のPSGでは、エムバペという「王」が戴冠するだろう。実際8月11日には、エムバペに惜しみないスタンディング・オベーションが贈られた。彼はこの日、1ゴール1アシストと活躍し、2019年のリーグゴール数でメッシと並ぶ欧州1位に躍り出たのだった(21ゴール)。

 ただ、これでPSGがCLのハードルを越えられるかと言えば・・・?

 当のエムバペが一番よくわかっているようだ。エムバペは11日、眉をやや顰めて「彼(ネイマール)なしだと同じチームじゃなくなるからねえ」と漏らし、同時に決意のようなものも滲ませた。ネイマールの悲劇は、パリをどこに導くのだろうか。(結城麻里=パリ通信員)

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