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【コラム】海外通信員

「もはや強豪ではない」アルゼンチン代表 AFAのわびしさ

[ 2019年5月20日 12:30 ]

アルゼンチン代表のリオネル・エスカローニ監督
Photo By AP

 6月14日に開幕するコパ・アメリカに向けて、コロンビアやブラジル、パラグアイといった南米の他の国々の代表監督が記者会見を通して40名の予備メンバーを発表した一方で、アルゼンチン代表のリオネル・エスカローニ監督は同人数のリストを期限前にCONMEBOL(南米サッカー連盟)に提出したものの、AFA(アルゼンチンサッカー協会)がその名前を公表することはなかった。

 にも関わらず、エスカローニが選んだ予備メンバーはメディアによって一斉にすっぱ抜かれた。最終的に23人に絞られるリストについて、当初は「予備登録されるのは32人」との情報が流れ、その後エスカローニ自身が「35人から36人になるだろう」と語ったものの、結局CONMEBOLに提出されたリストには40人の名前が綴られていたことまで詳しく報じられた。日本でも一部のメディアが「コパに向けたアルゼンチン代表メンバーが発表された」と報道していたが、公式発表があったと思われてもおかしくない状況だったことは間違いない。

 昨年のW杯の前も、当時の監督だったホルヘ・サンパオリによる発表を前にして、スポーツ紙に全招集メンバー全員の名前が掲載されていたことを思い出す。それだけ内部の情報が筒抜けの状態であることを晒されても何の措置も取らず、むしろ代表チームの話題を取り上げてもらうだけでありがたいとでも言いたげな、メディアに媚びているのではないかという印象さえ与える現在のAFAには、どうしても不甲斐無さを感じてしまう。

 今思えばこの不甲斐無さはそもそも、監督としての経験が皆無だったエスカローニにアルゼンチン代表を任せた時から明らかになっていたようなものだ。サンパオリを辞任に追い込んだあと、ホセ・ペケルマンやディエゴ・シメオネ、マウリシオ・ポチェティーノ、そしてペップ・グアルディオラに至るまで、実に豪華な後任候補者の名前が次々と挙げられたが、実際は誰とも本格的な交渉を始めるためのコンタクトを取っていなかった。AFAのクラウディオ・タピア会長は、グアルディオラのアルゼンチン代表監督就任の可能性について調べたものの契約金が高過ぎて諦めたと説明し、「彼を呼ぶためには何もかも抵当に入れなければならなくなる」という冗談まで言っていたのだが、この発言を知ったグアルディオラは「(AFAからは)私にも私の関係者にも何の連絡もなかった。タピアが私の報酬に関してそのようなことを言ったことに傷ついている」と語っている。AFAの会長たる者が、口先ばかりで実際は何の行動も起こしていなかったことが発覚した時のバツの悪さといったら恥ずかしいにもほどがある。

 そんなAFAの侘(わび)しさは、代表チームに対する評価にも影響を及ぼしている。先日、日本のメディア向けにアルゼンチン代表のアシスタントコーチを務めるロベルト・アジャラのインタビューをコーディネートする機会があったのだが、そのインタビューのなかでアジャラが「アルゼンチンはもはや強豪ではない」と語っていたことは衝撃的だった。いかなる対戦相手もアルゼンチン代表を恐れることはなくなってしまったというのだ。

 また、かつてコロンビア代表やエクアドル代表の監督を務めた名将フランシスコ・マトゥラナなどは、来たるコパ・アメリカに出場するチームについて聞かれた際、アルゼンチン代表のことを「現時点では存在しない」と言い切った。マトゥラナは「(今の時点では)チームになっていないのだから分析の仕様がない」と指摘しながらも「唯一言えるのは、素晴らしいプレーを見せるだけの選手たちは揃っているということだ」と話しており、優れた素材を擁していながら活用できていない実状に対する厳しい意見にAFAの関係者はさぞ耳の痛い思いをしたに違いない。

 強豪ではなくなった上にチームになっていないアルゼンチン代表。今回のコパ・アメリカはそういった不名誉な印象を一掃する機会となるわけだが、さて。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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