【コラム】金子達仁

ここで金を獲れなければ、いつ獲れるのか

[ 2021年4月22日 09:00 ]

 いわゆるドーハの悲劇を体験した選手の中には、4年前、W杯イタリア大会の予選に出場していた選手が何人もいた。日本サッカー史上、もっともW杯に近づいた選手のほとんどは、その数年前までアマチュアとしてプレーしていた。

 つまり、アジア1次予選で負けたメンバーと、最終予選を突破しかけたメンバーの顔ぶれと実力に、その結果から想像されるほどの違いはなかった。

 では何が違いを生んだのか。

 観客の多寡ではないか、とわたしは思う。

 JSL時代の日本サッカーは、不人気スポーツの代表格だった。スタンドには閑古鳥が鳴き、国立競技場に2万人が入れば、大成功と見なされる時代だった。

 だが、Jリーグが発足すると、すべては変わった。それまでアマチュアだった選手は、プロとして大観衆の前でプレーするようになった。

 各チームが大物外国人を獲得したこともあって、選手たちは物凄い勢いで磨かれていった。ドーハで散った選手たちは、4年前とは比べ物にならないぐらい、重圧と強烈な個に対する耐性を身につけていた――。

 いま、世界各国で開催されているリーグの多くは、スタンドに観客を入れない形で行われている。制限があるとはいえ、1万人近い観衆の前で行われているJリーグは、世界的に見れば明らかに少数派である。

 つまり、世界中の多くの国が、アマチュア的な環境下でのリーグを余儀なくされているのに対し、日本は、ベストとは言えないまでも、プロと呼ぶには十分な条件でリーグを進めてきた。

 この1年で、だから、Jリーグと世界の差は一気に縮まった可能性がある。3月に行われたアルゼンチンとの2試合を見て以来、そんな思いを捨てきれずにいる。

 メキシコ、南アフリカ、フランス。簡単な組み合わせでないことは間違いない。メディアの中には、“死の組”なる手垢(てあか)のついたフレーズを使うところもあるだろう。

 ただ、メキシコは、フランスは、アルゼンチンよりも圧倒的に強いのかといえば、それは違う。しかも、メキシコは州ごとに判断が違うようだが、それでも映像や写真にはほとんど観客の姿がなく、フランスにいたってはいうまでもない。仮に彼らの方が力量で優(まさ)っていたとしても、ここ1年間、プロの環境で磨かれてきた度合いは日本の方が上だと言っていい。

 そもそも、今大会における日本の目標は、1次リーグ突破ではない。であれば、決勝トーナメントに進出して初めて強度の高い試合を経験するより、取り返しのつく序盤戦でタフなドツキ合いをやっておいた方がいい。

 ここ数大会、五輪に挑む日本代表の可能性を、わたしは“1次リーグ最下位以上ベスト4以下”と見てきた。展開次第では全敗もあるが、1次リーグ突破=ベスト8でもある五輪の場合、そこでもう一つ勝つのはさほど難しいことではないと思っていた。
 今回は、違う。

 ベスト8以上金メダル以下。というより、ここで金が獲れなければ、いったいいつ獲れるのか、という話である。

 五輪が予定通り開催されれば、の話だが。(金子達仁氏=スポーツライター)

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