【コラム】金子達仁

長友のためにも FC東京担当の方、辛め原稿よろしく

[ 2021年9月23日 16:30 ]

笑顔でスタンドに向かって手をたたくFC東京のDF長友(撮影・篠原岳夫)
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 世界で勝つためには、もっと多くのJリーガーが海を渡る必要がある――トルシエがそう言ってから、もう20年近くになる。
 事あるごとに賛否両論を巻き起こしてきた彼ではあるが、この発言に関してはほとんど何の反発もなかったように記憶している。少なくとも、わたしは完全に同意、だった。事あるごとに反発してきたにもかかわらず。

 その理由を、改めて考えてみた。

 前提その一。Jリーグのレベルが欧州よりだいぶ下だと思っていたから。というか、実際に下だったから。

 前提その二。海外での生活を経験することが、自分を大きく変えると信じていたから。日本にいたときは気付かなかった日本の良さに気付く場合があるから。

 以上、2つの前提によって、わたしはトルシエの言葉に同意したのだった。

 だが、あの頃のわたしが失念していたこともある。

 確かに、Jリーグのレベルは世界トップクラスとは言い難い時代だった。ただ、98年のW杯フランス大会には、2人の外国人Jリーガーが、名門の大黒柱として君臨していた。ドゥンガとストイコビッチである。

 つまり、“どこでプレーするか”という問題は、“どうプレーするか”によって克服が十分に可能だということを、あの頃のわたしは気付いていなかった。

 では、ドゥンガは、ピクシーは、Jリーグで“どうプレー”していたのか。真っ先に思い出すのは、隠そうともしていなかった怒りである。彼らは、常に激怒していた。日本人選手とは、発する熱量が根本的に違っていた。

 「勝つチームの熱量ではなかった。ぬるいお湯に浸(つ)かっているとダメ」

 復帰したFC東京について語った長友の言葉が、賛否両論を巻き起こしている。個人的な印象では否の方が多い気もしたが、長友からすれば、偽らざる心情だろう。ただ、多くの人は長友の言葉をチームに向けたもの、と受け取ったようだが、わたしは、メディアに対する言葉でもあるように感じた。

 FC東京の選手が「ぬるいお湯に浸かっている」かどうかはわからない。ただ、彼らの戦いぶりを伝えるメディアのあり方は、わたしも含め、圧倒的にぬるい。日本代表の敗戦に激怒するわたしは、FC東京の黒星に我を忘れたことはないし、監督の采配や選手の出来を批判したこともない。

 だが、長友がプレーしてきたインテルは、ガラタサライは、たった一つのミスでメディアやファンから袋叩きされることもあるチームだった。危機感を自家発電するしかないJリーグの環境は、確かにぬるい。

 これは日本社会ゆえの特性、ではない。阪神や巨人の選手や監督は、勝っても負けてもメディアやファンの手厳しい批判を浴びている。レベルの差異はあるかもしれないが、メジャーから来た、帰って来た選手が日本野球を「ぬるい」と評するのを聞いたことはない。

 ドゥンガやピクシーがプレーした頃に比べ、Jリーグのレベルは格段にあがっている。それでも、帰って来た選手に「世界との差は開いた」「ぬるい」と言わせてしまうのは、メディアの側にも一因がある……と思う。

 というわけで、スポニチのFC東京担当の方、これからはもう少し辛めの原稿で行くというのはいかがでしょう。長友のためにも。

 あ、機会があればわたしも頑張りますよ。もちろん。(金子達仁氏=スポーツライター)

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