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【コラム】海外通信員

絶賛ブレイク中 イタリア代表19歳MFニコロ・ザニオーロ

[ 2019年1月18日 06:00 ]

ローマに所属するMFニコロ・ザニオーロ(右)
Photo By AP

 昨年の9月2日、UEFAネーションズリーグのポルトガル、ポーランド戦に臨むイタリア代表のメンバー発表は物議を醸した。そこにはローマに所属する19歳のMF、ニコロ・ザニオーロが初招集されていたからだ。議論の的となったのは年齢の若さもさることながら、トップでの実績がまるでない状態での招集だったことだ。イタリアU-19代表の中心選手であったとはいえ、上の年代でのプレー経験も招集経験もない。何より、これまでの所属クラブではトップチームとしての出場経験がまるでなかった。首をかしげるサッカー関係者も少なくなかったが、ロベルト・マンチーニ代表監督はこう力説した。「19歳で強力な選手だったら、試合に出てしかるべきだ。彼はU-19欧州選手権で活躍した。過去にも若くして代表に呼ばれた選手はいる」。

 さすがに代表デビューまでは果たせず、ザニオーロは所属クラブに戻ってくる。しかしそこから、彼はローマで急成長を果たしたのだ。パリ・サンジェルマンから移籍した新戦力のハビエル・パストーレ、代表MFのロレンツォ・ペレグリーニといった主力選手が故障欠場する中、コンスタントに活躍しスタメンの座を不動のものとしてしまったのだ。非常に高い身体能力と技術を兼ね備え、攻撃をグイグイと牽引。近年はクラブレベルでも代表でも、若手イタリア人のタレント不足に悩まされてきたイタリアサッカー界にとって、待望のスターが誕生しているのである。

 プレーの特徴を一言でいえば、上手くて力強い。本来のポジションはインサイドMFだが、トップ下でのプレイも得意とする。そして体躯は190cm80kgと、MFとしてはもちろん大型だ。しかしながら、スピードがある上に足元が非常に器用ときている。敵に2、3人囲まれてプレスを受けようが、ものともせずに軽やかなボールコントロールでいなすと、ダイナミックなドリブルで前方へ推進する。視野も広くてパスも正確なら、ゴール前に詰めてシュートも狙い、守備でもファウルも辞さないくらいにハードな当たりを見せる。

 12月26日のサッスオーロ戦では待望のセリエA初ゴールを挙げるのだが、それがまた凄かった。縦パスに反応して前方へ飛び出し、右サイドをドリブルで駆け上がる。そしてゴール前に迫ると、右足のヒールで急激にボールの方向を転換させ、マークについた相手MFとGKにまとめて尻餅をつかせる。最後は利き足の左で軽くボールを浮かせ、ガラ空きとなったゴールへ流し込んだ。チームのレジェンドであるフランチェスコ・トッティが現役時代に得意としていた『クッキャイオ(スプーンキック)』を彷彿とさせる美技は、まさに新時代のスター誕生をアピールするものだったと言える。

 もっともこの逸材は、早くから脚光を浴びていたというわけではなかった。出身は、フィオレンティーナの下部組織。だがパンタレオ・コルビーノ強化部長には才能を認められず、16年になんとタダでエンテッラへと放出されてしまう。しかしそこから成長した。エンテッラではプリマベーラ(ユース年代チーム)の主力として活躍し、9ゴールを挙げる。そこにインテルが目を付け、シーズン終了後引き抜きに成功。17-18シーズンにはプリマベーラ全国選手権優勝に貢献し、イタリアのU-19代表でも中心選手としてU-19欧州選手権準優勝に貢献した。

 そんなザニオーロは18年の夏、ラジャ・ナインゴランとのトレードの一環としてダビデ・サントンとともにローマへ移籍した。インテルもよくもまあそんな逸材をみすみす手放すものだと思ったが、ピエロ・アウジリオ強化部長らには抵抗があったらしい。しかしUEFAチャンピオンズリーグを戦うため、ルチャーノ・スパレッティ監督はかつての愛弟子だったナインゴランの獲得を優先的に希望した。一方で育成年代での活躍をチェックしていたローマのモンチ強化部長は、ザニオーロの獲得を熱烈に希望。ローマからはナインゴランの獲得条件の一部にザニオーロの保有権を要求され、インテルは飲まざるを得なくなったという。

 ともかく、イタリアサッカー界期待の逸材は絶賛ブレイク中。「技術とフィジカルは素晴らしい。経験を積む必要はあるが、すごいMFになるだろう」とマンチーニ監督は持ち上げる。アズーリ(イタリア代表)が復活しカタールW杯本大会に進出する場合、その中心にいるのはこのザニオーロなのかもしれない。(神尾光臣=イタリア通信員)

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