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【コラム】海外通信員

ブルゴスの大きな賭け アトレチコ・マドリード前アシスタント・コーチ

[ 2021年3月19日 07:00 ]

 2011年から10年にわたってディエゴ・シメオネ監督のもとでアシスタント・コーチを務めてきたヘルマン・ブルゴスがこの度、母国で監督デビューすることとなった。

 ブルゴスの新天地はロサリオ市の名門ニューウェルス・オールド・ボーイズ。ニューウェルスといえば、日本のサッカーファンの間では「ガブリエル・バティストゥータやリオネル・メッシの古巣」というイメージが強いかもしれないが、アルゼンチンでは優秀な指導者を輩出する機関として知られる。マルセロ・ビエルサ、ヘラルド・マルティーノ、マウリシオ・ポチェティーノ、ガブリエル・エインセなどがその代表的な例(の一部)だが、同クラブでのプロとしてのプレー経験、指導経験こそないものの、ホルへ・サンパオリもニューウェルスに強く傾倒した指導者だ。

 私は過去に何度かニューウェルスを訪問しているのだが、その度にクラブ関係者が決まって「ここは指導者の養成校だ」と誇らしく語ってくれる。そして、このクラブからこれほど多くの優秀な指導者が生まれている理由を問うと、ほぼ必ず「もともとescuela(学校)として設立されたクラブだから」との返答が返って来る。ニューウェルスの人々には、クラブがスポーツをするためだけの場所ではなく、あらゆることを学び、それを次世代に伝承=教えていくための学校だという意識が根付いているらしい。

 指導者養成機関としての実績を誇るニューウェルスだけに、今回、クラブ出身者でもなく、監督としての経験も皆無に近いブルゴスを選んだことには私も少し驚いた。シメオネの右腕として欧州の第一線でノウハウを学んだキャリアを考慮すれば、アルゼンチン1部リーグのどのクラブでも挑戦に値する能力があることは明らかだが、いかに名将とされる監督でも即時に結果が出せなければ解雇という残酷な結末が日常茶飯事となっているこの国で、しかも現在不振の続く名門が、シーズンの途中で「よそ者」の「新米」に行方を託したことが意外だった。

 だが当のブルゴスは、こんな事態も十分想定していたそうだ。昨年7月にアトレティコに別れを告げて以来、自分が監督を任される様々なシチュエーションを考え、それに見合った具体的なプランを考案していたらしい。今年2月末にアルゼンチンのメディアの取材に応じた際には「各クラブのアイデンティティを理解し、それに相応しいサッカーをすることが肝心。そのためにはまず下部組織にどのような人材が揃っているのかを知ることが重要」と語っており、アルゼンチン全土から粒よりの若手が集結するニューウェルスでの挑戦が魅力的に映ったことは間違いない。

 まだマドリード滞在中だった3月14日に監督就任が正式に発表され、不在のまま翌15日の練習から早速独自のメニューでトレーニングを開始。16日朝にブエノスアイレスに到着すると、そのままロサリオに直行し、PCR検査を受け、陰性結果を待ってから午後の練習の指揮をとった。ロサリオに向かう直前には「一歩前進して賭けに出る時が来た」と語ったブルゴスの意気込みは、クラブのSNSで早速公開された練習風景の動画からも伝わり、ビエルサやエインセのような「ニューウェルスっ子」にも通じるようなオーラを漂わせていた。

 ブルゴスの大きな賭けは、3月19日(金)の対ウニオン戦からスタートする。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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