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【コラム】海外通信員

老いていく者を置き去りにするレアル 存在感を示すモドリッチ

[ 2020年12月20日 05:30 ]

クロアチア代表MFルカ・モドリッチ(レアル・マドリード)
Photo By AP

 「レアル・マドリードは超エリートクラブであり、必要なレベルに達しなくなった選手たちを容赦なく退団に追いやっていく」

 10年くらい前、スペインのスポーツ紙『アス』の当時の編集長であり、スペインを代表するスポーツジャーナリストの一人であるアルフレド・レラーニョにインタビューをしたとき、そんな言葉を聞いた。たしか、ラウール・ゴンサレスとグティのレアル退団に関する質問の返答だった。たとえどれだけクラブに貢献した存在であっても、老いていく者を置き去りにしていく……。だからこそレアルはレアルなどだと、僕が痛感した言葉だった。

 そして今現在、サンティアゴ・ベルナベウの全面改修工事により、Bチームのスタジアム、アルフレド・ディ・ステファノでプレーするレアルでは、9月に35歳となった一人のベテランが若々しく躍動している。ルカ・モドリッチ、その人だ。

 老いていく者を置き去りにするレアルで、クロアチア人MFは置き去りにされるどころか、いまだにチームを引っ張っている。後方から前線まで懸命に走りながらパスコースの三角形を形づくる中心となり、ボールを取られたときにも走力を落とすことなくチームが必要とする守備をこなす……。レアルは12月初旬にアラベス戦、シャフタール・ドネツク戦を立て続けに落として、リーガ優勝が霞むばかりかクラブ史上初のCLグループステージ敗退の危機に陥ったが、その後セビージャ戦、ボルシアMG戦、アトレティコ・マドリードとのダービーで3連勝を果たしてそれを回避した。その3連勝で改めて存在感を示していたのが、モドリッチだった。直後、チームが何とか4連勝を果たしたアスレティック・ビルバオ戦では流石に疲労があったのか精彩を欠いていたが、それも彼が「やっぱり人間だった」ことを感じさせるくらいものだ。モドリッチがレアルの10番として、まだまだやれるという感覚を消すものにはならない。

 モドリッチの今季の出場時間は1160分で、レアルの中ではカリム・ベンゼマ、ラファエル・ヴァランに次いピッチに立っている時間が3番目に長い。なぜ35歳でここまでコンスタントに出場して、驚異的なパフォーマンスを見せ続けられるのか……。前述の『アス』によれば、その秘密の一つが、ザグレブ大学でキネオロジー学科教授ヴラトコ・ヴクセティッチのサポートであるという。同教授は2018年ロシア・ワールドカップ前からモドリッチと働き始め、食事や個人トレーニングを徹底的に管理するほか、メンタルもケア。それが非現実的な若さを保つことにつながっているとのことだ。

 レアルは期待の若手エルネスト・バルベルデが完治まで1カ月を要した負傷から復帰を果たし、モドリッチは今後、出ずっぱりにはならないかもしれない。が、彼が今季のチームの浮沈を握る存在であることは、おそらく変わらないだろう。そして、きっと来季にもこの白いユニフォームの10番をつけて躍動しているはず。レアルは彼と今季まで結んでいる契約を、1年延長する準備を進めている。

 「レアルで引退したくない人間がいるのかい? 中盤の選手が、35歳になってもここに残り続けるのは稀だ。そんなことは分かっている。でも、僕はその“規則”を破ってみせたい。僕はレアルにたどり着くために懸命に努力し、それからあらゆることを経験してきた。簡単に何かをあきらめることはない。ここで続けるにふさわしいことを示すために闘っていくよ」

 「もう自分がキャリアの始まりにいないことは分かっている。でも、まだ何年かフットボールができる両足を僕は持っているんだ。100%、まだプレーしたという思いがある。練習する、戦いに臨む、タイトル獲得のために犠牲となるモチベーションは変わっていない。選手は年齢ではなく、ピッチ上で示すことによって裁かれるべきだ」

 今年7月、モドリッチはクロアチアのスポーツ紙『スポルツケ・ノヴォスティ』とのインタビューでそう語っていたが、彼はすでに未知の領域に足を踏み入れている。過去、レアルで35歳以上となってもプレーした選手はアルフレド・ディ・ステファノ、フェレンツ・プスカシュ、パコ・ブージョなど20世紀に活躍した伝説的人物が多く、21世紀に入ってそうした年齢までプレーしたのはDFのマノロ・サンチス(36歳までレアルに在籍)、フェルナンド・イエロ(35歳)、ファビオ・カンナバーロ(35)、GKのイェジー・ドゥデク(38歳)がいるくらい。運動量が求められる中盤の選手であるモドリッチは、もはや特異な存在だ。

 彼がレアルでどこまで走れるのか、そこでスパイクを脱ぐことができるのかは分からない。しかし白いユニフォームを汗まみれにする彼を、まだまだ見ていたい。そのプレーぶりは年齢という概念を超越して、多くのサポーターにそんなことを希求させている。(江間慎一郎=マドリード通信員)

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