【コラム】海外通信員

泣き虫ネイマールの涙。ー19/20 CLファイナルに負けてー

[ 2020年9月5日 08:00 ]

 ネイマールはよく泣く。“ショロン”。このポルトガル語の意味は『泣き虫』だ。これまでに何度もネイマールの涙を見てきた。今回、2019/20シーズンCLファイナルでも…。

 2011年、クラブW杯ファイナルのバルセロナ戦で大敗を喫した時。2014年、ブラジルW杯の準々決勝のコロンビア戦で負傷した時。2016年、リオ五輪の決勝でドイツを破ってブラジルに初めてサッカーで金メダルをもたらした時。2019年、コパアメリカ直前に怪我で戦線離脱した時。

 試合中にファイルを受けて怪我をして泣いたことも何度となくある。

 ネイマールはよく泣く。確かにそうだ。

 今回のCLファイナル。PSGはコロナ禍で中断もあった長いシーズンの最後にやっとここまでたどり着いた。相手は、バルサをこてんぱんに叩きのめしたバイエルンだ。決して楽観視はできないことなどわかっていた。それでも、手を伸ばせば届きそうな欧州タイトルを前にどれほど心が高鳴っただろう。

 しかし、結果は1-0。あっけなく指の間を滑り落ちて行ったタイトルを前に、ネイマールの目から涙があふれ出したのも無理なかった。

 今シーズンを振り返って見ると、1年後にPSGがCLのファイナルに残るような高揚感などどこにも無かった。1年前、PSGからバルサに復帰か?とネイマール、PSG、バルサのそれぞれの思惑などが絡み、数ヶ月に渡り移籍ニュースが流れたものだ。結局、PSGはネイマールを手放さず残留となった。当時、ネイマールの心はPSGにあらず、PSGサポにしてみたら、クラブへの忠誠心を疑いたくなるのは当たり前のことで、ネイマールへの批判的な声の中で19/20シーズンの幕が開けた。

 それでも、1年が過ぎてみると、ネイマールは27試合17ゴール、アシスト22。CLは7試合3ゴール。フランスリーグは15試合13ゴール。出場した試合ではチームの得点のほぼ半分(46%)に絡んでチームに貢献した。

 シーズン始まりの頃、「ブーイングの中、試合することには慣れてる。ホームゲームでもアウェイのようにプレーしないといけない。」と自分の立場を理解していた。

 ホームゲームで自分の味方になるはずのサポーターを敵に回したネイマールは実力を見せていくことで応えていくしかなかった。

 シーズン半ばには怪我で10試合を失った。助けられたのは、コロナ禍の試合休止期間だった。肋骨の怪我をしっかりと治す猶予期間が与えられたことだった。チーム1ファイルを受けるネイマールにとって怪我との戦いはもう一つの涙の要因だ。

 さて、結局、罵倒から始まったシーズンだったが、PSGサポにクラブ史上初のCLタイトルを取るという夢の実現に限りなく近づいたのには、間違いなくネイマールの存在があった。

 最後には、サポの心を掴み、このままPSGに残ると宣言。

 「来季もPSGプレーする。もう一度CLの決勝に残って勝つんだ。自分の名前をクラブの歴史に刻みたい」

 どうやら、“泣き虫ネイ“は“一回り成長したようだ。

 2011年、クラブW杯ファイナルでバルサを前に手も足も出なかった時の涙とは違う。あの時、試合後のネイマールは、まるで濡れ鼠のように自分の無力さに打ちひしがれ、か細い何もできない未熟な子供から28歳の大人になっているんだ。

 ネイマールはお金の亡者と言う人たちもいる。が、多くの優秀な選手を育ててきた指導者がこう言っていた。

 「お金のためにサッカーをしているんじゃないと思う。お金のためならネイマールはもうサッカーなどしなくてもいいくらい稼いでいるんだから。サッカーが好きだから、やっているんだと思う。」

 ネイマールはずっと言ってきたじゃないか。

 「サッカーは自分1人でするものではない。」

 自分の存在価値を自分だけの成功ではなく、クラブのためと心から言えるようになったら、違うステージがきっと訪れるはずだ。サッカーは巨大ビジネスであり、様々な思惑がうごめく世界だが、世界最優秀選手バロンドールを取るためにタイトルを目指すのではなく、チーム、クラブでビッグタイトルを取ったら、その先に、ご褒美があるのだ。

 来季、今度こそ、ネイマール&ムバッペコンビがタイトルを掲げる日が見られるだろうか。

 泣き虫でもいい。いくら泣いてもいい。チームのための1人のネイマールになるのなら。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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