【コラム】海外通信員

大揺れマルセイユにサンパオリ上陸へ 起こるのは奇跡か、それとも高波か? 酒井宏、長友への影響は?

[ 2021年2月24日 08:00 ]

マルセイユ・長友佑都
Photo By 共同

 1月から歴史的大揺れに見舞われているオランピック・ド・マルセイユ(マルセイユ、愛称OM)に、ホルヘ・サンパオリが上陸しそうだ。両者はすでに口頭合意に至っており、早ければ今週金曜日(2月26日)にも到来するのではないかとみられている。

 2021年1月のOMは大激震に襲われた。1月16日に格下ニームに敗れると(1-2)、同20日には2部から昇格してきたRCランスにも敗北(0-1)、次いで同23日にはモナコの軍門にも下ってしまった(1-3)。

 こうしたなか同30日には、ジャック=アンリ・エロー会長のクラブ運営姿勢に怒った300人余のサポーターが練習場ラ・コマンドリーに乱入、車や木が燃えて、雰囲気はほとんど「蜂起」状態に。OMサポーターの反乱は珍しくないが、本部棟もあるラ・コマンドリー突入は初めてで、クラブハウスにいた監督や一部選手とも「ご対面」してしまった。

 激震はそれでも終わらなかった。

 2月2日にはアンドレ・ヴィラス=ボアス監督が、指導部に口頭で辞意を伝えた後、「違約金など1ユーロも要らない。ただ出ていきたい」と記者会見で辞任を発表。これに激怒したエロー会長は、解雇に先立つ措置として知られる「出入り禁止処分(謹慎処分)」をクラブコミュニケで発表した。

 とはいえ監督不在というわけにもいかない。そこで急きょ代理監督に就任したのが、OM育成センター責任者のナセル・ラルゲ。プロチームなど率いた経験もない教育者だ。ところが穏やかでシンプルなこの代理監督に守られながら、OM選手たちは必死に戦い始めたのだった。

 主将ステーヴ・マンダンダを中心に、生粋のマルセイユっ子ブバカール・カマラ、リーダーシップのあるアルバロ・ゴンサレス、勇敢な戦士として知られる日本代表の酒井宏樹と長友佑都らがガッツを注入。RCランス戦(2-2)、パリSG戦(0-2)、ボルドー戦(0-0)と、勝てなかったものの勇猛な連戦を披露し、ニース戦(3-2)ではついに勝利も手に入れた。

 2月20日のナント戦はまたドロー(1-1)に終わったが、「勝てないなら少なくとも負けない」意志と団結をみせた。オーバーウェイトに加えモチベーションも失せ気味だったディミトリー・パイエットも結果を出し始めた。こうして、気づいてみれば荒波は鎮まり、大きく傾いていた傷だらけの戦艦も少し立て直されていた。

 だがエロー会長とサポーターの激突は続き、OMを築いてきた歴史的サポーター集団との全面対決路線を打ち出した会長は、全マルセイユ人を敵に回してしまった。しかも2月19日には地元紙「ラ・プロヴァンス」に「反抗!」の大見出しが躍り、マルセイユとOMを愛する知識人、アーティスト、OB、政治家らが揃ってエロー会長批判の論陣を張る事態となった。

 超有名ラップグループ「IAM(アイアム)」から、OBのエリック・ディメコやマテュー・ヴァルブュエナ、社会党マルセイユ市長ブノワ・パイアン、市第2助役で重要人物のサミア・ガリ女史に至るまで、みながサポーターを強く支持したのである。マルセイユ民衆とOMは一体であり、OMはフットボールの枠を大きく超えた社会的存在だからだ。

 しかも同じ19日にはサポーター集団が一致団結して記者会見し、エロー会長にたいし「実のところあなたは民衆全体、街そのもの、アイデンティティーを攻撃し、クラブのDNAさえ攻撃したのだ。われわれはあなたのアメリカモデルなど望まない。われわれはもうあなたをOM指導者として認めない。クラブを去れ!」とのコミュニケを発表。マルセイユだけでなくフランス全土もサポーター支持に回ってしまった。エロー会長のテクノクラートなアメリカンビジネスモードは、フランスのフットボールパッションとは相いれない状態になっている。

 そこにホルヘ・サンパオリの到来である。エロー会長も直に交渉したと言われている。

 現在のラルゲ代理監督は育成センター責任者に戻る予定で、トップチーム指揮経験を糧に、育成に一層邁進したい様子だ。サンパオリも、ラルゲのお蔭で傷をかなり癒した選手たちを率いることができる。だが選手たちは、またしても新監督に適応しなければならないことになる。

 同監督のレッド退場シーンはいまフランス中から注視され、「ときには新監督が奇跡を起こすこともある」(ジェルヴェ・マルテルRCランス名誉会長)の少数意見と、「退場シーンを見る限りこれは手榴弾だ。いつ何時でも安全ピンを切って投げつけかねない」(「レキップ」紙のギヨーム・デュフィ記者)の多数意見で盛り上がっている。23日付「レキップ」は、「魅惑人であると同時に破壊人でもある」と紹介している。

 一方OMサポーターたちはと言えば、いまのところ冷めた目つきだ。活火山のような監督が活火山のようなクラブに合うとは限らないからだ。またサンパオリ指揮下でプレーしたOBのアディル・ラミは23日、「いまのOMには合わない」と指摘している。好結果が出れば話は別だが、せっかく凪が訪れた海にまた高波が襲ってくる可能性も、ないとは言いきれない気配だ。

 リーグアンはあと12節を残すのみ。マルセイユの場合そこにクップ・ド・フランス(フランス杯)が加わる。果たしてOMは荒海を抜け出し、5位(ヨーロッパ舞台)に辿り着けるだろうか。勇敢に戦い続ける酒井と長友にも、改めて熱い眼差しが注がれている。(結城麻里=パリ通信員)

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