【コラム】海外通信員

セリエA(1部)昇格組 フィリッポ・インザーギ率いるベネベント

[ 2020年10月3日 05:30 ]

 吉田麻也が所属するサンプドリアの初戦の相手は、セリエAに昇格したベネベントだった。ベネベントといえば、初めてセリエAに昇格した2017-2018シーズンに開幕14連敗という不名誉な欧州記録を樹立してしまったクラブであることを覚えている方もおられるだろうか。そしてサンプ戦でも、前半早々に2失点を献上してしまう。

 ああ、今回のダメなのか…と、ファンには昔の記憶がよぎったのかもしれない。しかしその後、彼らは諦めずに戦い続け、攻めた末に得たCKのチャンスをルカ・カルディロラが決めて1点を返す。そのペースを後半も保ち続けて同点とすると、試合終了間際の後半43分にガエタノ・レティツィアが豪快なミドルシュートを突き刺して、逆転勝利を演じてしまった。昇格組がセリエAの開幕戦で、3ゴールを奪って勝利したのはセリエA史上初めてのこと。トップカテゴリーに2度目の挑戦となる彼らは、今度はポジティブな記録を樹立したのだ。

 ピッチサイドから指示を送っていたのは、フィリッポ・インザーギ監督だ。ちょうどその時は、ラツィオで監督をしている弟のシモーネも試合に勝った。「試合後家に電話したよ。そしたら父が嬉し泣きしてたんで、話ができなかったんだ」。指導者に転身し、本田圭佑(現ボタフォゴ)が所属していた時代のミランを指揮していたかつての名ストライカーは、2015年にミランを解任された後苦労の時を送っていた。

 ミランとの契約が2016年で切れたのち、彼は第3部からやり直した。もともと現役時代から下部カテゴリーをチェックしていて、各チームの主力選手のほとんどの情報を頭に入れ、レーガ・プロ(第3部)のマニアを自称していたほどだった。そこからフロントに自分から意見を送るなどイニシアチブを取り、1年でセリエB昇格に成功させる。翌シーズンにプレーオフへと導いたのちにボローニャから話を受けてセリエAへ再挑戦をする。ところは結果が出ずにチームは降格圏に落ち、インザーギは解任される。後任となったのは、ミラン時代と同様にシニシャ・ミハイロビッチ 。彼がチームを見事に立て直して残留に成功させたことも、残酷な対比となってしまった。

 だが、失意のインザーギに再びチャンスを与えてくれたのは、南部のクラブであるベネベントのオレステ・ビゴリート会長だ。「彼の勝利にかける執念をとても評価していた」という同会長は、以前から誘いたがっていたのだという。そして2019年夏に自分のもとへと呼び寄せると、温かくサポートする姿勢を見せた。「最初の20日間の夏合宿が終わった時、会長は私とスタッフに感謝をしてくれたんだ。これには驚いたよ。自分はいい選択をしたと思った。自分の人生感において、人間関係というのは基本だと思っていたからね」。そこからインザーギは、ベネベントで素晴らしい仕事を果たしていく。守備の際には全員が引いてたくましくゴールを守り、攻撃の際には4人のアタッカーによるカウンターを主体に力強く圧力をかけていくチームを作り上げ、ぶっちぎりでセリエB優勝。しかも得点数はリーグ最多、失点数はリーグ最小、勝ち点は20チーム制で行われたシーズンの中では歴代最多、さらには最短でのセリエA昇格決定と、何もかもが記録づくめだったのである。

 そしてセリエAの再挑戦を始めたチームは、昨季同様攻守にアグレッシブだ。2戦目のインテル戦は2-5で敗れたものの、相手に対して攻撃の姿勢を失わず胸を張れる内容だった。「どうせ0-1や0-2で敗れるくらいなら攻めに行こうと考えた。そしてチームは、チャンスを作ってよく攻めた。自分の好きな姿勢だ。こういった試合はチームをさらに成長させてくれる」。貪欲にゴールを狙った現役時代のスピリットをチームに植え付け、高みを目指す。(神尾光臣=イタリア通信員)

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