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【コラム】海外通信員

メッシ到来でフランスに異常現象

[ 2021年10月5日 13:15 ]

10月3日レンヌ戦でFKを蹴るパリSGのMFメッシ
Photo By AP

 リオネル・メッシの到来で、フランスに予想外の現象が起きている。

 メッシがパリSGの選手として初ゴールを披露したのは、ホーム「パルク・デ・プランス」(略称パルク)にマンチェスター・シティを迎え撃った、チャンピオンズリーグ(CL)の夜だった(2-0、9月28日)。パルクは熱に浮かされたように燃え上がり、「メーッシ!メーッシ!」の大歓声がこだました。

 さて、その翌日。レンヌで異常現象が記録された。

 リーグアン第9節レンヌ・パリSG戦(10月3日)の特別高額チケット3000枚が、数分で売り切れてしまったのだ。しかも高いチケットほど猛スピードで売り切れたという。どうやら日ごろスタジアムに足を運ばない富裕層や企業役員などが、メッシ見たさに殺到した模様だ。

 その最高額は170ユーロ(10月4日現在約2万2000円)と、リーグアンの試合では前代未聞の超高額。にもかかわらず数分で完売したばかりか、仮に6000枚以上あっても、またもっと高額でも、完売しただろうとみられている。

 そして10月3日当日、スタッド・レネ(レンヌ)のホーム「ロアゾン・パルク」は、文字通り満員御礼となり、すさまじい熱気に包まれた。

 実はメッシ到来以来、パリSGを迎える各クラブは、特別高額チケット販売路線を導入。第3節でパリを迎えたブレストは35~80ユーロ、第4節でパリを迎えたSDランスは35~100ユーロの特別チケットを、それぞれ販売した。

 今回のレンヌは最も高い49~170ユーロに踏み切った格好で、サポーターからは危惧の声も上がった。だが、すでに一年分の会費を払っている1万5000人の年間会員は、いわば格安で「ナマ・メッシ」を観られたことになる。

 同様のパリ戦特別高額チケットは、宿敵のマルセイユまで含め、全クラブが続々導入中。さすがに100ユーロ(約1万3000円)の大台を超える価格設定には躊躇しているが、富裕層はともかく、非会員の「普通のファン」には高くつきそうな気配だ。また来シーズンの年間会員サポーター会費も、上がらないとは言い切れない。

 SCOアンジェのサイド・シャバンヌ会長は、これまでなら口にできなかったような本音を吐いている。

 「確かにフットボールは大衆的スポーツだが、がらくた市場だって回さなくちゃいけないんだ。観客席を5ユーロで売るために何百万ユーロもスタジアムに投資しているわけじゃない」

 フランスのフットボールは昔から、労働者と庶民のものだった。その大衆文化が金満パリSGの誕生とメッシの到来でついに葬られ、ビジネス新時代に入るのだろうか?それがいいのか悪いのか、まだ誰も知らない。

 もっとも10月3日のレンヌでは、もう一つの予想外現象も生まれた。

 天才メッシのタクトでパリSGが「今シーズン最高の25分間」(レキップ紙記者)を披露し、まずは予想通りレンヌを圧倒。メッシも見事なFKを蹴った(バー)。ところが何とレンヌが、たった2分間(45分と46分)で逆転してしまったのである。

 気づけば、メッシ、ネイマール、エムバペ、ディ・マリア、ヴェラッティ、ドンナルンマらがひしめく煌びやかな銀河系集団が、国際的には無名に近いレンヌに完敗(2-0)。しかもパリSGの枠内シュートは「0」に終わった。メッシと対戦できることで、レンヌ選手たちのモチベーションは最高潮に達したのだろう。

 「ロアゾン・パルク」を埋めた大観衆も、初めての「ナマ・メッシ」を堪能したうえに、自分のチームがジャイアントキリングを実現するという、夢の一夜を過ごすこととなった。試合後のスタジアムにはしばし、選手と観衆の熱烈なクラッピングが響き続け、チケット高騰問題も忘れられていた。

 リーグアンでのメッシはここまで0ゴール。「MNM」(メッシ&ネイマール&エムバペ)も、黄金トリオに化けるのか、三角関係のもつれで終わるのか、いまひとつ不明だ。

 特別高額チケットが用意されるなか、メッシはフランスのどこで、ネットを揺らしてくれるのだろうか。(結城麻里=パリ通信員)

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