【コラム】戸塚啓

価値ある五輪出場権 獲得への道

[ 2024年3月1日 10:00 ]

<日本・北朝鮮>勝利し喜ぶ日本代表イレブン(撮影・小海途 良幹)
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 寒風吹きすさぶ国立競技場で、なでしこジャパンが歓喜を爆発させた。パリオリンピックのアジア最終予選で、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に競り勝ったのだ。

 簡単な試合ではなかった。

 ホーム&アウェイの第1戦となる北朝鮮のホームゲームは、直前まで開催地が決まらなかった。日本国内で調整するチームが行き先を聞かされたのは、試合4日前の2月20日だった。

 チームは同日夜に現地へ向かった。21日朝にジッダに到着し、24日のアウェイゲームに臨んだ。

 試合翌日は午前中にトレーニングを行ない、午後にチャーター便を使ってアブダビ(UAE)へ移動した。およそ3時間半の待ち時間を経て、22時過ぎ発の定期便で帰途に就いた。

 帰国は26日昼過ぎで、その日の夕方にはトレーニングを再開した。翌日の公式練習を経て、28日のホームゲームに臨んだ。

 日本からアウェイの地へ向かい、試合後すぐに帰国してまた試合というスケジュール自体は、珍しいものではない。問題はアウェイゲームの開催地が、直前まで決まらなかったことだ。

 行き先があらかじめ決まっていれば、気候の違いや時差への対策もできる。しかし、ここまで直前まで行き先が分からない状況では、調整にも限界がある。

 選手たちは真冬の日本から日中の気温が30を超えるジッダへ移動し、スコアレスドローの結果を持ち帰ってきた。この試合が昨年11月以来の実戦で、一部の選手は現地で合流したことを踏まえても、0対0の結果は悪くなかった。

 国立のホームゲームを前に、前売りチケットの売れ行きが鈍いことが話題になった。

 チケットの概要が発表されたのは1月10日で、発売開始は15日だった。試合当日まで1か月以上あったが、その間にどれぐらい告知が行なわれたのか。

 国立競技場はJRと地下鉄で徒歩圏内だ。アクセスは問題ない。ただ、2月28日は平日で、18時30分キックオフのナイトゲームだった。しかも、ここ数日は寒さが厳しい。風が強い日も多い。花粉症の人は大変だ。観戦へのハードルは高かったと言える。

 国立競技場に近い秩父宮ラグビー場では、金曜日にリーグワンのナイトゲームが行なわれている。こちらもスタジアムへのアクセスに問題はなく、試合開始は19時と感染しやすい条件が揃うが、集客には苦戦している印象だ。

 その一番の要因は、一般的な認知度が低いことにある。試合が開催されていることが、広く知られていないのだ。

 なでしこの試合に話を戻せば、もっと告知できなかったのか。

 たとえば、北朝鮮戦のメンバーが発表された2月8日をきっかけとして、パリ五輪出場が決まる重要なゲームが行なわれることを、もっともっとアピールして良かったと思う。

 さらにはチケット代の設定だ。最高値のカテゴリー1が前売りで5100円、当日で5600円となっている。カテゴリー2は前売りが4100円で、当日が4600円だ。平日の仕事(や部活)のあとで、寒さの厳しい2月のナイトゲームといった環境を考慮すると、割安感がどこまであったか。薄かった気がする。集客を優先して思い切った値段設定にしても良かったのでは、と思う。

 東京五輪銀メダルのバスケットボール、絶対王者の中国を猛追する卓球など、各競技で女子代表の活躍が目ざましい。女子バレーも五輪の出場権はつかんでいないが、昨年9月のワールドカップでは3位に食い込んでいる。

 こうした種目がパリ五輪で表彰台に上がり、なでしこジャパンが出場を逃していたら、女子サッカーの停滞感が強調されてしまう。世界一になったことがあるだけに、なでしこジャパンに向けられる視線は他の競技よりシビアだからだ。表向きは無関心に見えても、結果は厳しく受け止められる。

 それだけに、五輪の出場権獲得は価値がある。同時に、ようやくスタートラインに立った、とも言える。池田太監督と選手たちにとっては、ここからが正念場だ。目に見える部分と見えない部分で、これまで以上のサポートが求められる。(戸塚啓=スポーツライター)

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