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【コラム】海外通信員

【フランスコラム】ドリブラーの宿命とウスの道(前編)

[ 2023年11月9日 08:00 ]

フランス代表FWウスマンヌ・デンベレ(パリSG)
Photo By スポニチ

 リヨンを3年連続でリーグ優勝に導き(2003、04、05年)、パリSG(PSG)監督も務めた(07-09年)ポール・ルグエン氏は、テレビ番組でこう言ったことがある。

 「私はドリブラーが好きじゃない。ドリブルのためにドリブルする選手など我慢ならない」

 普段冷静な彼が妙に嫌悪感を露出したため、印象に残った。このとき画面に映し出されていたのは、ある選手が華麗なドリブルをしたものの、結局何にも繋がらなかったシーンだった。

 当時は、ウスマンヌ・デンベレが育成クラブ・レンヌとのプロ契約をせずに去り、キングスレー・コマンも育成されたパリを去って、それぞれドイツに羽ばたいた後だった。2人とも無類のドリブラーで、フランス代表にもデビューしたが、なぜか2人とも「華麗なドリブルで輝くが、コンスタントさに欠ける選手」になってしまった。しかも2人とも怪我に悩まされた。

 デンベレは飲食や就寝などの生活面で大人になりきれず、結果として怪我ばかり。コマンはプロ精神に問題はなかったが、身体的に脆く、やはり怪我ばかり。「90分間もたない」と承知のうえで、ディディエ・デシャン監督がフランス代表に呼んでいたほどだった。

 ドリブラー。華やかな響き、スペクタクルな残影・・・。マラドーナのドリブルに魅せられて、世界中のどれだけの子どもたちがサッカーを始めただろうか。メッシのドリブルに陶酔して、どれだけの小柄な子どもたちが希望をもっただろうか。ネイマールのドリブルに圧倒されて、どれだけの少年たちがいまも「炎のドリブラー」になろうとしているだろうか。それだけでドリブラーたちは大きな貢献をしている。また多くの観衆もひたすらそれを見て楽しんでいる。

 だがドリブラーとして大成する選手はごく少ない。君臨できる全資質と環境と運を持てない限り、難しいからだ。知る人ぞ知るドリブラーがいても、いつの間にか消えてゆくのが現実である。たとえば神童アテム・ベン=アルファは一時期、ドリブル成功率でメッシを超えたことさえある。誰もがワールドクラスになると思い、少年時代からもてはやされた選手だが、彼は「知られざる伝説のドリブラー」として、大成しないまま消えてしまった。

 そしていま議論を呼んでいるのが、ウスマンヌ・デンベレである。

 生活習慣を正し、怪我地獄から抜け出したように見えるデンベレは、バルサを後にして祖国のパリSGに移籍してきた。パリ郊外出身の本人も大満足、仲良しのキリアン・エムバペも大満足。しかもフランス代表選手を多く擁するチームにもなった。

 ところが――。そのデンベレに批判が出始めた。移籍からここまで1度もゴールしていないからである。「ゴールしないドリブラー」のレッテルが貼られ始めたのだ。ドリブラーの宿命が容赦なく襲いかかる。このまま消えてゆくか、何が何でも偉大なドリブラーとして大成するか、それとも・・・。道は3つに1つしかない。(結城麻里=パリ通信員)

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