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【コラム】海外通信員

QPRクリス・ラムジー氏「育成において大事なことは結果よりも個人のパフォーマンス」

[ 2018年12月28日 13:00 ]

 「育成において大事なことは、何よりも個人のパフォーマンスを高めること。結果ではない。これまでにQPRとトッテナムでのアカデミー組織で取り組んできたことはそういうことだ。これは私の哲学である。」これはクイーンズ・パーク・レンジャース(QPR)で現在テクニカルダイレクターを務めるクリス・ラムジー氏の言葉である。

 2014年にトッテナムからQPRにやってきたラムジー氏は、長年トッテナムで育成組織を作り上げてきた主要メンバーの一人である。トッテナムではトップチームのアシスタントコーチ、QPRではトップの監督も務めた経験がある。トッテナムは2005年に12年計画の育成改革を打ち出した。それから時は経ち、ハリー・ケーン、ハリー・ウィンクス、ダニー・ローズなど歴史に名を残す名手を数多く育てることに成功している。

 11月某日、チャンピオンシップ(イギリス2部)に属するQPRのトレーニング場を訪れた。練習後、ラムジー氏はプレゼンテーションのスライドを使いながら1時間近く説明してくれたのだが、言葉にこもる熱量は先ほどまで行われていた練習時のものとまったく変わらないものであった。

 「ファーストチームと育成組織において何が一番大切か?ファーストチームが優先することは、なによりも結果である。トップでは内容が悪かろうが結果が伴っていれば周りは許してくれる。しかし、育成の場では選手個人のパフォーマンスが優先されなければならない。育成の現場で結果を求めれるのは、コーチやその周りにいる大人のためだ。若いコーチが将来はモウリーニョのような監督になりたいと望むだろうが、トップチームの監督たちは選手を育てるということはしていない。私も勝ちたいと思う。しかしながら、私にとっての勝利という意味は個人の選手のパフォーマンスが高まるということ、その先にチームの勝利がある。育成と結果は対峙するものではない。トッテナムでも12年かかった。育成には時間は必要だ。」

 訪問した午前中のラムジー氏のトレーニングは、U-23とトップチーム若手選手が数人混ざる形でおこなれていた。90分の中で、常に人とボールが激しく行き交うものであった。メニューの緻密さ、選手が激しくプレーする濃度、個人に対するコーチング、そして時折見せる冗談など、ラムジー氏が作り上げる強い意志を感じることができた。冷たい雨が降りしきる天候であったが、選手はもちろん、スタッフ全員がラムジー氏の一挙一動に注目し、のめり込むように集中したトレーニングに取り組んでいた。

 「どのような選手が生き残っていけるのか?第一にテクニックを重視している。10歳までの選手を獲得する時も、フィジカルに騙されずにテクニックを優先させる。テクニックがあれば、どのポジションもこなせる。11歳から14歳までは様々なポジションを経験させて、どのポジションで長所がいきるか見極めている。15歳と16歳になって最適なポジションを見つける。選手とコーチには長所を伸ばすことを常に意識させている。自分の長所を自己評価軸とコーチからの評価軸で、星3つで採点している。コーチは選手のあら探しをしがちであるが、トレーニングとゲームで選手の長所を伸ばせと繰り返している。総合点で評価する必要はないと考えている。世界的なスーパースター見て欲しい。メッシ、ディバラ、ダビド・シウバ、左利きで背が小さい。しかも片方の足しか使っていない。」

 ヨーロッパ内でもラムジー氏の育成論には注目が集まってきており、欧州各国でもゲストスピーカーとして招かれ講演をしている。

 「選手にはカメレオンのような適応能力を求めている。プレミアリーグの監督の在籍期間は非常に短い。たったの1,1シーズンで監督が入れ替わる。その度に、サッカーの方向性も大きく入れ替わる。我々はバルセロナではない。ユースからトップまでの戦い方が繋がるのは理想形であるが、我々は一つの戦術にこだわるのはでなく、個人の選手としてどのように適応して生き残れるかを意識している。どの監督でも認めれてくる長所をもつ選手を育てることが大事である。」

 育成方法に正解はない。ラムジー氏のやり方をそのまま日本に適応することは難しいことであろう。日本の文化的な背景などを考えると圧倒的な個はここでは育ちにくいと批判を浴びることになるかもしれない。しかしながら、カメレオンのように適応しどの監督のもとでも認められる長所を育てるという視点は、ゴール前の決定的な場面で違いを見出すことできる選手が求められている日本サッカー界の選手育成においてヒントとなるだろう。(ロンドン通信員=竹山友陽)

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